
アックスタイムズでは、水素の中でも特にCO2排出量が少ないグリーン水素の市場展望を体系的に分析した調査報告書を、2024年12月19日にリリースしました。
今回、アックスタイムズを支援するパートナーライターにより、本調査を担当したリサーチャーに対するインタビューを実施しました。
聞き手:パートナーライター
話し手:アックスタイムズ株式会社 新時代エネルギー・脱炭素テック担当
今回発刊されたレポートのテーマについて
――最初に、今回発刊されたレポートのテーマについて教えてください。
2024年12月に発刊した今回のレポートは「グリーン水素」に着目しています。具体的には「グリーン水素の製造計画・コスト分析及び国内・グローバル市場の展望2025年版」というタイトルです。
アックスタイムズでは、以前にも「水素」に関連した2つのレポートを発刊しています。海外政策動向に着目した「海外の水素関連政策から読み解くグローバル水素市場の展望と日本の位置付け」というレポートと、水素市場を俯瞰した「水素エネルギー陣営・政府の戦略と市場の最前線」というレポートです。
ですので、水素に関連したレポートとしては今回で3本目になります。

水素は製造方法によって「カラー」がある
――グリーン水素とは何でしょうか?普通の水素とは違うのでしょうか?
グリーン水素とは、再生可能エネルギーを活用し、水の電気分解によって製造された水素です。再生可能エネルギーというのは、例えば太陽光や風力などですね。グリーン水素は、化石燃料に由来する水素よりも製造工程のCO2排出量が少なく、環境価値が高いという特徴があります。
実は「水素」というのは、製造方法によってカラーがあります。グリーン水素、ブルー水素、グレー水素の3つが代表的です。
もちろん、実際の水素に色がついているわけではありません。簡単に言うと「環境価値の程度を色で示している」ということですね。もっと具体的に言うと環境価値の程度はCO2排出量とも置き換えられますし、CO2排出量は製造方法に紐づいています。製造方法によってそれぞれ、グリーン水素、ブルー水素、グレー水素と呼ばれています。

グリーン水素以外の2つの水素についても簡単に説明しておきます。
ブルー水素は、化石燃料を使用した水蒸気改質法等によって製造された水素であり、CCUS(CO2の回収・貯留・有効利用)等により製造工程で排出されたCO2を回収している水素です。グリーン水素と同様に、グレー水素よりも環境価値が高いという特徴があります。ただし、たとえ回収を行っているとしても、化石燃料由来の水素としてCO2が排出されている点で課題があるといえます。
グレー水素は化石燃料の水蒸気改質法等により製造された水素です。製造工程においてCO2を排出するため、環境価値が低いです。
グリーン水素は脱炭素社会を実現するための手段として注目されている
――今回、3つの水素の中でもグリーン水素に着目して市場調査を行った理由を教えてください。
最近では「脱炭素社会」という言葉をよく聞くようになりました。具体的に日本の場合は「2050年に脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現する」と宣言しています。もちろん脱炭素社会はグローバルな課題ですので、主要国の多くも2050年~2060年を目途に脱炭素社会の実現を目標としています。この脱炭素社会の実現には、CO2排出量を抑える必要があります。
2050年ごろまでに脱炭素社会を実現するためには、現在主に流通しているグレー水素からグリーン水素に置き換える必要があります。「グレー水素じゃダメだ。グリーン水素が必要だ。」という事実があるんですね。それは日本に限らず、グローバル市場でも同様で、グリーン水素が世界中で注目されている理由です。
しかし現在、流通している水素の大半は「グレー水素」なんです。つまり、製造工程でCO2を排出する環境負荷の高い水素が大半を占めているということですね。
ここに、目標と現状とのギャップがあります。
このギャップを埋める動きを把握するための情報の提供が非常に重要だと考えましたので、今回、グリーン水素に着目して調査を行いました。
グリーン水素に関して世界全体の動きが把握できる
――グリーン水素は日本に限らず世界で注目されているとのことでしたが、今回のレポートには日本以外の情報も含まれているのでしょうか?
日本以外の情報も含まれており、グローバルを対象としたレポートになっています。
脱炭素社会の実現に注力している、日本、アメリカ、欧州はもちろんですが、中国、韓国、オーストラリア、中東、南米、アフリカなど、幅広い国と地域を対象としてグリーン水素に関する情報を集めたレポートです。
業界の生の声を取材し、事実情報をベースとした現実的なレポート
――今回はどういった調査結果が得られたのでしょうか。ポイントを教えてください。
まず今回のレポートの大きな特徴は「業界の生の声を取材して、事実情報をベースとした現実的な分析を行った」という点になります。
つまり、ネットで公開されているような単なるリリース情報だけを整理したのではなくて、各分野で日本を代表するような大手企業様に取材を行ってレポーティングをしています。例えば、エネルギー会社様、化学メーカー様、製鉄会社様、石油開発事業者様、電機メーカー様、エンジニアリング会社様など、水素とのかかわり方が異なる幅広い企業様のなかで、水素の事業に関わる担当者様にお話を伺いました。
その上で、今回のレポートの特徴は大きく分けて3つあります。
1つ目は、2050年までの水素製造の市場規模を定量的に分析した結果を提供していること。
2つ目は、グローバルなグリーン水素に関する事例を多数提供していること。
3つ目は、水素に関する技術ロードマップや主要国の政策などが網羅的に含まれていること。
これら3つのポイントを中心に、約80ページのレポートにまとめています。

また2つ目の事例に関しての補足になりますが、グローバル市場におけるグリーン水素製造プロジェクトは65事例、水素の輸送・貯留プロジェクトは15事例をご提供しています。
エネルギーの中心は化石燃料からグリーン水素へ
――市場規模を2050年まで調査されたとのことですが、グリーン水素は今後、伸びていく市場なのでしょうか?
グリーン水素の市場は伸びていくと推定しています。
実際に調査していてわかったのですが、政府が「脱炭素社会を2050年までに実現する」と目標を掲げていることにより、多くの企業が水素を製造あるいは活用する方向に動き出しているんですよ。こういうこともあって、まず水素自体の需要が伸びます。現時点では、エネルギーとして化石燃料由来の石炭、石油、天然ガス等が主に使われているんですが、これらが水素に切り替わると予測しています。
わかりやすい例を挙げると、ガソリンで走っている自動車が、水素で走るように切り替わるということですね。自動車に限らず、発電(水素発電)、製鉄(水素還元製鉄)、都市ガス (e-methane) 等、さまざまな業界において、環境負荷の高い化石燃料から、環境負荷の低い水素に切り替わっていくというイメージです。
そのうえで、水素の中でもグリーン水素の需要は伸びていくと思います。水素の中だと今はグレー水素が主流ですが、今後は環境価値が高いグリーン水素の割合が増えていくと思います。具体的には、2050年段階では水素のうちの過半数がグリーン水素に置き換わると予測しています。

2030年に向けてグリーン水素を実用化するための準備が進んでいる
――化石燃料が水素に置き換わっていくというのは興味深いですね。今後のグリーン水素市場のポイントについて教えてください。
大きなポイントはグリーン水素を実用化するための準備が着々と進んでいる、ということですね。
先ほどもお伝えしましたが、現時点ではグレー水素が主流です。最近では、だんだんとブルー水素が増えてきています。一方で2030年に向けては、グリーン水素の大規模なプラント開発の計画が非常に進展しているんです。さらに、水素キャリアと呼ばれる水素を運ぶ技術や、運ばれてきた水素を利用する技術も開発が進んでいます。例えば、水素を使ってどうやって発電するかとか、どうやって製鉄に利用しようかとか、そういった技術開発や実証試験が進んでいるんです。
補足しておくと、製造方法が異なるだけでグリーン水素もブルー水素もグレー水素も同じ「水素(H2)」です。なので、製造方法以外、つまり輸送方法とか活用方法に関しては、グリーン水素もグレー水素と同じでよいのです。これもグリーン水素が市場拡大しやすい理由の1つですね。
グリーン水素関連の動きは全世界で取り組まれている
――グリーン水素市場の世界的な取り組みについて教えてください。
「グリーン水素が関係ないという国や地域はない」と言っても過言ではないと思っています。
まず日本は「水素基本戦略」を打ち出しています。これは、グリーン水素以外のグレー水素やブルー水素も含む水素全体に関する戦略ですが、2050年までに脱炭素社会を実現するために水素を導入していくだけではなく、グリーン水素などのより環境負荷が低い水素に移行していく方針を示しています。
また、2024年には「水素社会推進法」も成立しています。これは、環境負荷が低い「低炭素水素」を普及させ、活用を後押しするための法律です。この低炭素水素の中には、もちろんグリーン水素も含まれています。
つまり、日本は「グリーン水素に注力する」という方針は固まっているんですね。
アメリカでは、CO2排出量が少ない低炭素な水素の製造に関して、税制優遇(IRA(Inflation Reduction Act、米国インフレ抑制法))などの強力な政府支援を行っています。日系企業もグリーン水素を含め、水素関連の取り組みを米国で進めている事例が複数みられます。水素関連市場が成長していくうえで、米国は重要な国となっています。
欧州はロシアとの関係の変化に伴い、ロシアから供給されるエネルギーに依存しないための新しいエネルギーを確保することが重要なトピックになっています。この新しいエネルギーとして注目されているのが水素です。さらに欧州は、太陽光発電システムだけでなく風力発電も適した地域ですから、再エネを活用するグリーン水素とは非常に相性がよく、グリーン水素の推進が活発化しています。
中東は、現時点では石油などの化石燃料をたくさん輸出しています。しかし、脱炭素社会が進んでいくということになると、石油の代わりになる新エネルギーを無視できなくなります。そのため、新エネルギーの代表格である水素についても、製造を含めて推進に注力しています。
アフリカと南米に関しては、地域的に太陽光や風力などの再生可能エネルギーに恵まれています。ですので、これらの再生可能エネルギーを使ってグリーン水素を作って自国のエネルギーにしたり、各国に輸出したりしていくプロジェクトが進行しています。
オーストラリアも同じように、グリーン水素をアジアに向けて輸出しようという動きがありますね。
国によってグリーン水素への注力の程度は多少異なりますが、欧州やアジアといった大きな地域単位としてグローバル市場を捉えたときに、グリーン水素と無関係という地域はありません。
日本は水素に関する技術開発力が評価されている
――グリーン水素市場における日本の立ち位置についても教えてください。
世界的な観点から見たときにグリーン水素市場における日本の優位な点は「水素に関する技術開発力が高いこと」です。日本を代表するような大手企業がグリーン水素に関する技術開発や実証を着実に進めています。その取り組みは、国内だけではなく、海外市場で展開・関連性の強いグローバルなプロジェクトも含まれます。
逆に「グリーン水素を国内のみで大量かつ安価に調達する」ということは得意ではありません。日本は、再生可能エネルギーの普及がまだまだ進んでいないからです。そもそも、再生可能エネルギーを大量かつ安価に生み出すという観点では、日本は地理的に不利です。ですので、日本は「諸外国からグリーン水素を輸入して調達する」というのが現実的な路線です。
ただし「一方的に水素を輸入するのみ(海外にお金を支払うのみ)」というわけではなく、「水素に関する技術力をグローバル市場に展開(輸出)できる」というようなイメージ。水素市場の拡大に紐づいて、日本はちゃんと技術をグローバル市場に対して売り込めるんですよ。

水素市場の2つの大きな課題
――グリーン水素市場は拡大していきそうということがわかりました。もし市場拡大の課題があれば教えてください。
水素市場の課題は2つあります。まず、大規模なプロジェクトをどうやって具体化していくのかという課題。2つ目は価格が安いグリーン水素を作る技術をいかに開発するか、という課題です。
先ほど私は「現在はグレー水素が主要ですが、2050年に脱炭素社会を実現するためにはグリーン水素が必要です。でも、この2つの間にはギャップがあります。」とお話ししました。
まさにこのギャップを具体化したのが先ほどの2つの課題なんですよ。
「大規模な建設プロジェクトって実際どれくらい進んでいるんですか?」「いや実際にはまだ、計画段階なんです。」ということがしばしば起こっています。あとは「グリーン水素いいですね。買いますよ。え?めちゃめちゃ高いじゃないですか。」みたいなこともありますね。
この2つの大きな課題があるため、グレー水素からグリーン水素に置き換わっていかないのです。
「企業の技術力+政府の支援」が課題解決のカギ
――2つの課題を解決するための展望はありますか?
課題は大きいですが、悲観的に捉えなくてよいと思っています。先ほどもお伝えした通り、水素市場は今後伸びていくと予測しています。
というのも、大手企業やスタートアップ企業によって、水素関連技術の開発や実証が今まさに進んでいるからです。このことはレポートの中で詳細に書いていますが、事実として着実に進んでいるんですよ。
そして、課題解決のために必要なのが技術開発に対する各国政府の支援です。具体的には補助金等の金銭的な支援に加えて、市場を形成するためのルール作り・制度設計が必要になると思います。
「大手企業やスタートアップ企業の技術力+政府の支援。」
これらによって、先ほどのギャップ(課題)が埋められていって脱炭素社会の実現に向けてのグリーン水素の市場が伸びていくと、そういうふうに調査していて思いました。
発刊してから約1か月だが反響は大きい
――今回のレポートは2024年12月19日に発刊したとのことですが、反響はいかがでしょうか。
反響は想定以上に大きいですね。
発刊後すぐにご発注の連絡もいただけましたし、アックスタイムズの他のレポートと比較してもトップクラスのスピード感で反響をいただけている、というのが私の実感です。
いただけた評価としては「定量的な分析がしっかり行われている」「事実情報に基づく調査レポートである」あとは「グリーン水素の良い面だけでなく、課題についても把握・気づきに繋がる」というお声が多かったですね。
現実的な分析をしている点がみなさんに響いたのかな、と思っています。
業界問わず、多岐にわたるお客様にご購入いただけている
――具体的にはどういった企業・部署の方がご購入されているのでしょうか?
電力会社様、電機メーカー様、製鉄会社様、エンジニアリング会社様などが多いですね。
その他にも、一般的に考えたら「水素と関係あるのかな?」と感じるような企業様にもご購入いただけております。それだけ、水素に関連する業界の裾野が広いということです。
ご部署としては、部署名に「水素」と記載があるような水素について日々関わっているご部署の方々だけでなく、サスティナビリティ関連や環境関連、技術開発関連のご部署の方々など、非常に多岐にわたったお客様からお引き合いをいただけています。
レポートの内容はオンライン面談サービスで確認できる
――今回のインタビューを通じて、グリーン水素についてもっと知りたくなったのですが、詳細をお伺いするためにはレポートを購入しないといけないのでしょうか?購入前にレポート内容を確認する手段はありますか?
グリーン水素にご関心いただけているということで、調査を担当したリサーチャーとしては非常にありがたいです。
アックスタイムズでは調査を担当したコンサルタント(リサーチャー)とのオンライン面談サービスをご用意しております。こちらのサービスでは、オンライン会議システムを使って、実際のレポートを画面共有させていただきながら、ご購入前にレポートの内容をご確認いただけます。サービスのポイントとしては、単にレポートが事前に確認できるだけではなく、ご購入を検討されている企業様・部署様がお知りになりたいポイントを踏まえた上で、レポートの活用方法までご案内できる点です。
お問い合わせをいただければ、アックスタイムズの社員が対応させていただきますので、ぜひご活用ください。
以上
注:このインタビューは2025年1月9日に実施されました
聞き手:パートナーライター
話し手:アックスタイムズ株式会社 新時代エネルギー・脱炭素テック担当
この記事の元となる「体系的に整理された調査報告書」について
調査報告書名:グリーン水素の製造計画・コスト分析 及び 国内・グローバル市場の展望 2025年版
発行日 :2024年12月19日
体裁 :PDF_Slide16:9_75pages
調査・制作 :アックスタイムズ株式会社
[目次・調査概要]
https://axetimes.com/report/research-about_green-hydrogen-technology-and-market_global_2025/
[税込価格]
事業所ライセンス版PDF 99,000円(税抜90,000円)
企業ライセンス版PDF 148,500円(税抜135,000円)
グループライセンス版PDF 247,500円(税抜225,000円)