CO2資源化による脱炭素施策と市場の成長性

日本は2050年にカーボンニュートラルを実現する目標を世界に向けて発信し、その実現に向けたさまざまな施策を推進しています。その施策には省エネ機器の導入、電化の推進、水素・アンモニアによるエネルギー転換など、さまざまな施策がみられますが、今回はその中でも「CO2資源化」に着目し、脱炭素化施策としての位置付け、マーケットサイズ、市場規模拡大の要因などを整理しています。
なお、アックスタイムズでは、CO2資源化が今後の脱炭素化施策として重要な位置付けになると捉え、「CO2資源化・カーボンリサイクル調査企画」を立ち上げ、その第一弾として「CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版」を2023年8月10日に発刊しております。

脱炭素化に向けた「CO2資源化」の位置付け

2023年4月に環境省が公表した「2021年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値)」では、森林整備によるCO2吸収量増加などの効果もあり、温室効果ガス排出・吸収量は2013年度比20.3%減となる11.2億トンを達成しています。一方で、排出量そのものは、前年度比2.0%増となる11.7億トンに増加しており、その要因としてコロナ禍による経済停滞から脱却したことによるエネルギー需要増加が挙げられています。化石燃料への依存度が高い日本では、経済活動の活発化に応じてCO2の排出量が増加しやすい産業構造であると推定でき、省エネ施策などによってCO2排出削減の施策が進んだとしても、削減しきれないCO2(残余CO2)が一定量は発生することが想定されます。
こういった経済構造を前提としたうえで、カーボンニュートラルを実現するためには、残余CO2を能動的に消化する脱炭素化施策が必用となり、その代表的な方向性として、CO2を「貯留」するCCS、およびCO2を「資源化」するCCUが挙げられます。

CCS、CCUに共通して、官民連携の技術開発や実証実験などが進んでおりますが、「CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版」では、先行して国内市場の形成がみられるCO2資源化を対象として調査を実施しています。
なお、CCUには、今回のテーマである「CO2資源化」以外にも、CO2の圧入などにより原油回収率を高める「原油増進回収(CO2-EOR)」や、CO2をドライアイスなどに変換する「CO2の直接利用」といった施策が挙げられます。

≪CO2資源化の位置付け≫

  • カーボンニュートラル実現に向けた脱炭素施策として、省エネ施策などでは削減しきれない残余CO2への対策が重要となる。
  • 残余CO2の対策として、CO2の貯留(CCS)とCO2の利用(CCU)という方向性があり、CCUの具体策としてCO2を資源化する技術が生まれている。
  • CO2資源化には、化学品の原料として利用するケミカル利用、合成燃料などを製造する燃料利用、CO2を固定化する鉱物・化成品利用という方向性がみられる。

CO2資源化市場のマーケットサイズ

CO2の資源化の方向性として挙げられるケミカル利用、燃料利用、鉱物・化成品利用について、「CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版」では全10品目(対象市場は下記に記載)を調査し、その市場規模を合計したものを「CO2資源化市場規模」として分析を行っています。その調査結果として、2022年1,843億円から2050年16.3兆円へと市場規模が大きく拡大すると予測しています。

CO2資源化市場規模推移

(アックスタイムズ推計)

(出所)アックスタイムズ制作 2023年8月10日発行「CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版

CO2資源化市場規模(日本)の対象市場

  • ケミカル利用の対象市場:ポリカーボネート、ポリウレタン、パラキシレン、メタノール               
  • 燃料利用の対象市場:e-methane、e-fuel、バイオメタノール、バイオ燃料
  • 鉱物・化成品利用の対象市場:セメント・コンクリート・炭酸塩、バイオプラスチック 

市場規模が拡大する要因

1. CO2資源化に関する技術が順次社会実装される見込みであること

日本政府では、カーボンニュートラル実現に紐づく次世代の技術開発への投資としてグリーンイノベーション基金(GI基金)を設けており、この基金を活用し、「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」や「CO2等を用いた燃料製造技術開発」など、CO2を資源化するための技術開発を進めています。これらの技術は、現段階ではプロセス開発や実証実験の段階ではあるものの、2030年以降には順次社会実装が進み、市場を形成していくものと想定されています。

2. カーボンニュートラルな燃料としてCO2を利用した合成燃料の需要が高まること

CO2を資源化する具体例である「燃料利用」では、CO2と水素を合成することによって、持続可能な航空燃料(SAF)や、カーボンニュートラル燃料として都市ガスを代替できるe-methaneなどを生み出す動きが進んでいます。燃料利用の領域では、EUやIATA(国際航空運送協会)など国際的な機関・組織がCO2排出量削減への具体的な指標を策定する動きをとっていることから、民間企業がSAFなどカーボンニュートラル燃料を導入する動きが活発化しており、CO2資源化市場の中でも、市場の拡大をけん引する位置付けとなっています。

3. 製造プラントの大型化、水素価格の低下などの相乗効果によって、エンドユーザー側のコスト負担低減が見込まれること

CO2を資源化する技術開発は既にGI基金などによって進んでいるものの、現時点の技術水準では、CO2資源化による製品よりも、化石燃料由来の製品の方が導入価格が安いという現状がみられ、エンドユーザー側の導入促進の足かせになっています。この課題に対して、大型の製造プラントによる大量生産体制が整うこと、CO2と併せて原料として必要となる水素のコストが安くなることなどの条件が順次整うことによって、最終製品のコスト低下、エンドユーザー側の負担軽減が実現でき、市場が大きく拡大すると想定されます。

[参考]GI基金を活用したCO2資源化技術の開発動向

1. CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発

[概要]
CO2からの機能性化学品製造技術の開発として、CO2からポリカーボネートやポリウレタンなどを製造する技術を確立し、CO2排出量を削減すると同時に、機能性をさらに向上させる技術を実現することを目指しています。また、熱源のカーボンフリー化によるナフサ分解炉の高度化技術の開発やアルコール類からの化学品製造技術の開発などにも取り組んでいます。
[上限予算額]
1,262億円
[プロジェクト実施事業者(一部)]
東ソー/三菱ガス化学/浮間合成など

2. CO2等を用いた燃料製造技術開発

[概要]
脱炭素社会の実現に向けたカーボンリサイクル燃料の技術開発として、持続可能な航空燃料(SAF)製造に係る技術開発や合成メタン(e-methane)製造に係る革新的技術開発、合成燃料の製造収率・利用技術向上に係る技術開発などに取り組んでいます。また、水素と一酸化炭素(CO)による化石燃料によらないグリーンなLPガス合成技術の開発にも着手しています。
[上限予算額]
1,152.8億円
[プロジェクト実施事業者(一部)]
ENEOS/出光興産/東京ガス/大阪ガス/IHIなど

3. CO2を用いたコンクリート等製造技術開発

[概要]
CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの開発やセメント製造プロセスにおけるCO2回収技術の設計・実証、多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立などに取り組んでいる。CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの品質管理手法を確立し、国際標準化を図っていくことによって、国内市場だけではなく海外市場への展開も視野に入れた開発が進んでいます。
[上限予算額]
567.8億円
[プロジェクト実施事業者(一部)]
鹿島建設/竹中工務店/安藤・間/デンカ/太平洋セメント/住友大阪セメントなど

まとめ

化石燃料をベースとして構築されている現在のエネルギー市場においては、CO2は温暖化を引き起こす有害な物質として印象付けられやすいですが、CO2をケミカル原料や燃料として活用するCO2資源化技術が確立されることによって、CO2は脱炭素化にとって有益な資源としての位置付けに進化すると想定されます。
そして、2050年には約16兆円市場にまで拡大すると見込まれるCO2資源化市場に対して、先行投資・技術開発を行っている企業においても、今後のエネルギー市場で存在感を強めていくことでしょう。

記事制作 アックスタイムズ

CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版

当該調査はCO2を資源として捉え、ケミカル利用、燃料利用、および鉱物・化成品利用の3分野にて、全10品目の個別市場分析を実施しております。2050年までの国内市場規模予測、および定性的な市場動向を整理しています。

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