日本国内において、さまざまな脱炭素化施策が推進されるなかで、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)が実証段階から本格展開の段階に移行しようとしています。CCSは、工場などから排出されたCO2を分離・回収し、地中へ貯留する脱炭素化施策です。今回の記事では、脱炭素化市場におけるCCSの位置付け、日本国内の動向、定量的な市場分析などについて整理しました。
なお、アックスタイムズでは、CCS市場に関する市場調査レポートとして、「CO2回収技術およびCCS市場の将来展望 2023年版」を2023年10月10日に発刊しています。

カーボンニュートラル実現に向けたCCSの位置付け

日本政府は2050年にカーボンニュートラルを実現することを目標としており、その実現に向けて省エネ化や水素活用など、さまざまな施策を打ち出しています。一方で、未だに化石燃料由来のエネルギーに依存している体制を転換するためには中長期的な取り組みが必要であり、化石燃料に代わる水素やアンモニアといったクリーン燃料の導入が進んだ場合においても、2050年段階ではCO2の排出を完全に無くすことは難しいという課題に直面しています。
その課題対応として、工場などから排出されたCO2を回収し、地中に貯留することによって、実質的に大気中のCO2の総量を増やさない施策となるCCSに注目が高まっています。日本政府では、2030年までのCCS事業の本格開始を目標としており、2050年以降、回収されたCO2の大部分を地中層に貯留する体制を目指しています。

2050年に向けた日本の動向・方向性

CCSに関する日本の動向・方向性

なお、国内市場の現状としては、数件のCCS実証試験が実施されたのみとなっており、事業化段階として運営されているCCS事業はみられず、米国や東南アジアなど、海外市場が先行している状況となっています。

≪CCSの位置付けと現状≫

  • 省エネ施策などでは削減しきれない残余CO2への対策として、CCSの重要性が向上
  • 日本は、2030年までにCCS事業を本格開始すること、および2050年以降には回収されたCO2の大部分を地中層に貯留する体制構築を目標に設定
  • 現段階では、米国や東南アジアなど、海外市場において先行しており、日本では数件の実証試験が実施されている状況

CCS本格展開に向けた取り組み・施策

取り組み・施策➀:苫小牧市において大規模CCS実証試験を完了

国内最大級のCCS実証として、北海道苫小牧市おいて、累計約30万トンの貯留が実施されています。この事業では、日本CCS調査が主体事業者となり、2016年から年間約10万トン(累計約30万トン)の貯留を完了し、モニタリングの段階となっています。なお、苫小牧市の実証以外にも、東芝エネルギーシステムズによるBECCS型CO2分離・回収実証や、太平洋セメントによるセメントキルン排ガスからのCO2分離・回収実証試験など、CO2回収に関する実証が複数件実施されています。

取り組み・施策②:CCS長期ロードマップ検討会において日本政府としての方針を明確化

日本政府は2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定ており、その中で、2030年までのCCS事業開始に向けた事業環境整備を示しています。更に、CCSに関する具体的な施策策定として、経済産業省が主体となって「CCS長期ロードマップ検討会」が設置されています。当該検討会では、CCS事業への政府支援として、モデル性のある先進的CCS事業の支援、CCS適地の開発促進と地質構造調査、CCS事業の持続性に関する検討などが示されています。

取り組み・施策③:先進的CCS事業の選定

経済産業省所管の独立行政法人であるJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)は、2030年までのCCS事業開始、および事業の大規模化・圧倒的なコスト削減を目標として、モデル性のある「先進的CCS事業」を2023年6月に選定しました。先進的CCS事業では、電力事業者、石油関連事業者、商社、製鉄事業者など、さまざまな業種の企業が参画しており、また貯留地域も異なる多様な案件が選定されている点が特徴となっています。これらの事業を通じて、CCS事業の立ち上げに必要なノウハウを日本全体で培っていくことによって、2030年以降の案件拡大に繋げていく計画です。

先進的CCS事業

CCSに関する定量的な市場分析(日本)

アックスタイムズでは、CCSに関する市場動向を定量的に分析するために、「CO2回収技術およびCCS市場の将来展望 2023年版」において、累計CO2貯留量、年間CO2貯留量、施設稼働数を分析しています。2022年時点では、CCSによるCO2貯留の実績はみられないものの、JOGMECが選定した先進的CCS事業が2030年頃までに稼働する予定であることや、先行事例の横展開、各案件規模の拡大によって、2030年以降、中長期的にCO2貯留量は拡大を続けていくと予測されます。

CO2貯留量の推移

(アックスタイムズ推計)

(出所)アックスタイムズ制作 2023年10月10日発行「CO2回収技術およびCCS市場の将来展望 2023年版

[参考:金額ベースの市場分析について]
CO2回収技術およびCCS市場の将来展望 2023年版」では、年間CO2貯留量に対して、炭素価格を乗じることによって、CO2の貯留により生み出される価値の規模を分析しています。調査結果として、2040年には1兆7,400億円、2050年には7兆円規模にまでCO2の貯留によって生み出される価値が拡大すると予測されます。

グローバル市場におけるCCUS対象CO2規模とトレンド

グローバル市場では2022年実績として数千万トン規模のCO2を対象とした案件が展開されており、2030年には、さらに規模を拡大させることが予測されます。また、2022年にはCO2排出源施設から注入・利用地点までの輸送について、単一の事業者が一貫して主導・関与している案件(Full Chain)の規模が大きいものの、2030年には回収から貯留までのサプライチェーンにおいて、貯留領域を主に対象とする案件(Storage)の規模が急激に拡大するとみられます。このことから、今後のグローバル市場の方向性として、回収から貯留まで一貫して対応する案件ではなく、サプライチェーンにおける業務区分を細分したうえで、貯留関連(CCS)に関する案件の重要性が高まっていくことが見込まれます。

CCUS対象のCO2規模

CCUS対象のCO2規模

(IEA「CCUS Projects Explorer」を基にアックスタイムズ作成)

[補足:案件分類]

Full Chain:CO2排出源施設から注入・利用地点までの輸送について、単一の事業者が一貫して主導・関与している案件
Capture:主にCO2の回収領域を対象とする案件
Storage:主にCO2の貯留領域を対象とする案件

※CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage):回収したCO2を、地中への貯留だけでなく、燃料などに利用する取り組み。

まとめ

今後、CCSがカーボンニュートラル実現に向けた重要施策になることは、日本政府が閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」などからも明確なものとなっています。現時点ではグローバル市場と比較して、日本のCO2貯留規模は少ないものの、先進的CCS事業の立ち上げによって、2030年以降、中長期的な市場拡大が見込まれます。そして、市場拡大にて、CO2回収や輸送、貯留に関する技術・ノウハウのニーズも強まるとみられます。

記事制作 アックスタイムズ

CO2回収技術およびCCS市場の将来展望 2023年版

カーボンリサイクル技術に注目が集まる中で、本調査ではCCS市場に焦点を当て、先進的CCS事業など最新動向を踏まえた市場規模分析や、政府の施策、参入企業動向などの情報を整理しました。

CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版

当該調査はCO2を資源として捉え、ケミカル利用、燃料利用、および鉱物・化成品利用の3分野にて、全10品目の個別市場分析を実施しております。2050年までの国内市場規模予測、および定性的な市場動向を整理しています。