バイオものづくりとは? ~脱石油に向けた企業・事例・政策調査~

バイオものづくりは、微生物の力を活かして化学品などの目的物質を生み出す技術であり、グローバル市場で国策として技術開発競争が進んでいます。今回は、バイオものづくりの市場動向として、化学メーカーやスタートアップの動向や国内外の政府の動きなどを整理しました。

なお、アックスタイムズでは、「次世代バイオものづくり産業の技術・市場・政策分析及び事業戦略立案支援調査 2024年版」を2024年2月9日に発刊しました。本報告書では、脱石油資源に取り組む化学メーカーや自動車関連メーカーのバイオ化動向や国内の事例、日本・米国・欧州・中国・韓国の政策調査により、工業化学分野のバイオものづくり市場を分析しています。

バイオものづくりとは

石油化学プロセスからの転換

バイオものづくりは、微生物が有する力を利用することで、プラスチックの原料となるポリマーの生産や、微生物が分解できるプラスチック製品の製造など、従来の石油化学プロセスとは異なる生産プロセスにより目的物質を生み出す技術です。バイオものづくりでは、微生物の培養(エサ)として、CO2を吸収したバイオマスなどの資源を用いることによって、石油化学プロセスのものづくりでは実現が難しかった脱炭素化を推進することができます。

石油化学ベースのものづくりでは、既に大量生産できる生産体制が整っているため、経済合理性の追求による低コスト化の面では強みを発揮できます。一方で、CO2排出による環境負荷の高さも懸念されます。このように、従来のものづくりにおける環境面への課題を解決するための新しい生産プロセス・産業の形として、バイオものづくり(石油からの原料転換を図る動き)に注目が集まっています。現在は石油化学プロセスによる化学物質の生産が主要であるものの、高付加価値な目的物質を生み出すことができる新たな微生物の開発や、微生物の活動を促進し、大規模な生産が可能となるプロセス開発について、グローバル市場で競争が進んでいます。

バイオマス活用からCO2直接活用への進化

バイオものづくりでは、微生物が目的物質を産出するための原料が必要となります。現在の主要な原料は、サトウキビ、とうもろこし、木質ペレットなどのバイオマス資源が用いられており、これらは成長時にCO2を吸収することから、間接的にCO2を削減することができる原料として重宝されています。一方で、日本市場では、バイオマスを大量に生産・調達することが難しいという課題があり、更に、可食性のバイオマスは食料と競合することが懸念されています。そのため、現在、バイオマスに代わり、微細藻類や水素細菌を活用したバイオものづくりの生産技術の開発が進んでいます。

微細藻類や水素細菌を活用したバイオものづくりでは、食料との競合といった課題を解決しつつ、CO2を直接的に吸収できる利点が生まれます。現在は技術開発の段階であり、社会実装には中長期的な時間が必要となるものの、カーボンニュートラル実現に向けて重要な技術として、大手化学メーカーなどによる開発が進んでいます。

国内化学メーカーにおけるバイオ化の動向

三菱ケミカルグループ

植物由来の生分解性プラスチックと、バイオエンジニアリングプラスチックを中心にバイオプラスチックの普及・拡大に取り組んでいます。更なるバイオ化の取り組みとして、豊田通商と連携し、バイオエタノールを原料とするエチレン、プロピレンおよびその誘導品の製造・販売を2025年度に開始する方針を示しています。

住友化学

Ginkgo Bioworksなど、海外のバイオテクノロジー関連企業と連携を図りながらバイオ化の取り組みを進めています。微生物の発酵生産や機能化学品の量産化により、カーボンフットプリントの低い製品化を推進していくとみられます。2022年に環境に配慮したエタノールを原料とするエチレンの試験製造設備を千葉工場に新設しており、今後、事業化に向けた技術検証を進め、2025年度の事業化を目指す方針を示しています。

旭化成

「カーボンニュートラルでサステナブルな世界の実現」を目指し、リサイクル原料やバイオマス原料の活用に向けた取り組みがみられます。2023年に三井物産と連携し、米国で生産するバイオメタノールの供給・調達スキームを構築する取り組みを開始しています。

自動車業界におけるバイオ化の動向

現在、さまざまな分野でバイオ化への取り組みは広がりをみせており、一般消費者の生活に馴染みが深い食器やカトラリーとった日用品関連に加えて、生産財となる自動車関連においてもバイオ化が進んでいます。自動車関連メーカーでは、廃車後のリサイクル対応や、耐久性、燃費、デザイン性など、総合的な観点から付加価値を高める取り組みを進めており、バイオ化はそのための取り組みの一つとなっています。

バイオ化が進む部位

脱炭素化推進として、石化由来の製品をバイオ化する動きがみられ、内装部品・内装材や外装部品・外装材などのバイオ化が進んでいます。内装材では、ブラスチックなどの既存材料の使用部位において、バイオエンプラなどにより代替しやすい分野から先行してバイオ化が進んでいます。高い耐久性が求められる装置部品のバイオ化では、既存製品を代替するには一定の時間を要する見込みですが、強度の高いバイオ素材の開発によって、中長期的にはバイオ化が進むとみられます。

今後のバイオ化の方向性

大手の自動車関連メーカーでは、原料・部材を安定的に調達するニーズが高いことから、新規性の高い原料に対しては、安定的な調達の見通しの判断が難しいといった理由から、採用が進みにくい状況となっています。一方で、本田技研工業が藻類を活用した「Honda DREAMO」として、自らバイオ関連の技術の研究開発を進めている事例もみられます。自動車の生産に必要となる原料・部品の安定調達や低コスト化に向けて、自動車の完成品メーカーだけではなく、部材メーカーや化学品メーカーなどが連携しながら、自動車業界のバイオ化が進んでいくと予測されます。

次世代バイオものづくりの事例

CO2などの無機物を用いたバイオものづくりの技術は、脱炭素化・サーキュラーエコノミー推進を推進するグローバル市場において重要な次世代技術として注目が集まっています。グローバルな開発競争が進む中で、日本においても、化学メーカーや研究機関が連携して技術開発を進めています。

事例➀CO2由来の高機能接着剤を微生物により生産する技術の確立

積水化学工業では、CO2由来の高機能接着剤を微生物により生産する技術の確立を目指した「バイオものづくり技術によるCO2を原料とした高付加価値化学品の製品化」の事業を進めています。今後、高機能接着剤などの領域に向けて、2030年に年間33トンのCO2を利用した事業開始を目指す計画となっています。

事例②CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術の開発

カネカ、バッカス・バイオイノベーション、日揮ホールディングス、島津製作所では、「CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」を進めています。CO2を原料として生分解性バイオポリマーを生産する微生物の開発、および生産プロセスの技術開発を行うことで、化石資源に依存しない循環型バイオものづくり技術の実現を目指す方針を示しています。

事例③⽔素細菌によるCO2とH2を原料とする⾰新的なものづくり技術の開発

DIC、東レ、ダイセル、双日、電力中央研究所、Green Earth Instituteは、「⽔素細菌によるCO2とH2を原料とする⾰新的なものづくり技術の開発」を進めています。CO2を直接原料として物質⽣産するバイオプロセスとして、水素細菌の開発や、スケールアップへの実証などに取り組む方針を示しています。

日本政府の動向

バイオ関連政策の取り組み

日本政府は、バイオ産業における国際的な存在感が低下するリスクを回避するために、今後の方針として2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現することを示しています。具体的な政策として、2019年に「バイオ戦略 2019」を策定した後、「統合イノベーション戦略 2023」や「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、国策としてバイオものづくりを推進する方針を取っています。 

国策としての技術開発

上記の方針に紐づき、グローバル市場において日本の存在感を高めていくために、既に具体的な技術開発が進んでいます。GI基金事業「バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進」や、科学技術振興機構(JST)による「戦略的創造研究推進事業先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)」など、複数の技術開発のプロジェクトを官民連携により推進しています。

海外政府の動向

日本に限らず、バイオものづくりを国策として推進する動きはグローバル市場で進んでいます。欧米や中国・韓国では、直近数年の間にも、バイオものづくりに関連する政策を打ち出しています。

国別の主要政策

米国

豊富なバイオマスを経済発展に活かす方針がとられており、近年ではバイオものづくりに関する有力な技術を持つスタートアップも立ち上がっていることから、バイオエコノミー推進は、いっそう重要な位置付けになっているとみられます。バイオテクノロジー関連産業の国内回帰を促し、国内サプライチェーンの強化などを目的として、2022年9月に「国内バイオ産業振興に関する大統領令」に署名が行われています。

欧州

2012年にバイオエコノミー推進に関する戦略が策定され、その後、2018年に改定される形でバイオものづくり関連の政策が打ち出されています。欧州では、脱炭素化と経済成長を推進するための施策として、「European Green Deal(欧州グリーンディール)」を2019年に策定しており、バイオものづくりを主眼とした政策ではないものの、脱石油化の観点としてバイオエコノミー推進、サーキュラーエコノミー推進に紐づくことから、今後のバイオものづくり関連の推進にも関連するとみられます。具体的には、バイオベースのプラスチック、生分解性プラスチックなどを推進するための枠組みとして「EU policy framework on biobased, biodegradable and compostable plastics」が2022年に策定されています。

中国

2022年に「第14次5カ年計画 バイオエコノミー発展計画」が策定され、世界最先端のバイオエコノミー国家を目指す姿勢が示されています。従来、バイオものづくりにおける包括的な政策はみられず、「国家イノベーション駆動発展戦略綱要(2016~2030年)」や「中国製造 2025」などにおいて部分的に示されていたものの、今後は、大規模な投資や関連政策の策定が想定されます。

韓国

2022年に「国家合成生物学育成戦略」が発表され、2023年には、取り組み方針を具体化したものとして「合成生物学の中核技術開発および拡散戦略」が発表されています。2030年に向けて、世界最高水準の技術レベルまで高めていく方針が示されており、バイオものづくりとして幅広い産業に向けてバイオ化が推進されるとみられます。

今後の市場の方向性・注目キーワード

コスト高への課題対応

バイオものづくり産業の拡大に向けて、最大の課題はコスト高となっています。経済合理性を追求する形で構築された既存の石油化学ベースの産業・サプライチェーンに対して、バイオものづくりによる生産コストは、数倍以上のコストを要するとされています。コスト高の課題には、短期的な解決方法はなく、低コストを実現できる更なる技術開発、大量生産を実現できる大型プラントの建築など、中長期的な視点の取り組みが必要となります。そういった状況のなかで、現在技術開発を進めている企業では、コスト増を許容してでもバイオ関連製品を受容しているエンドユーザーの開拓を進めています。

認証制度によるバイオ化製品の価値化

上記の「コスト高への課題対応」に関連し、コスト高であってもバイオ関連製品を受容できるエンドユーザー、市場環境を作り出すことが重要な取り組みとなっています。そのための方策の一つとして、認証制度によって、対象のバイオ関連製品のGHG削減効果を見える化し、脱炭素化ニーズの高い企業・産業が受け入れやすい状況を作り出すことが挙げられます。
ISCC PLUS認証がバイオ関連の認証制度で代表的なものとなっているものの、認証制度への対応は各社の対応事項となり、認証取得にも一定の時間・コスト・ノウハウを有する点が課題となっています。そういった課題に対して、補助金や推奨制度など、単独企業では推進が難しい社会全体・国家的な支援が重要となっています。

スタートアップの台頭

バイオものづくりに関しては、グローバル市場において多くのスタートアップが生まれています。従来の石化プロセスとは異なる生産技術の開発となることから、大手化学メーカーであったとしても、技術開発の実績・知見が豊富といった状況ではなく、スタートアップとのアライアンスによって、バイオ化を推進する事例がみられます。
バイオものづくりに関するスタートアップでは、2008年に米国のボストンで創業した米国のGinkgo Bioworksが細胞・ゲノムの研究開発領域のパイオニア企業として注目を集めています。その他にも多くのバイオ関連スタートアップが米国で台頭しています。日本では、神戸大学などの合成生物学を中心とした先端研究開発や民間企業との連携などを推進しているバッカス・バイオイノベーションが存在感を高めています。

まとめ

バイオものづくりは、技術開発段階の事例も多く、コスト高などの課題がみられるものの、着実に市場拡大への道を進んでいます。この動きは、石油化学ベースの産業をバイオベースへと転換させる新たな産業革命と表現しても過言ではありません。既に大手化学メーカーが具体的な目標を示しながら技術開発を進めている点、日本および主要国が国策として政策立案・投資を行っている点からも、バイオものづくりによる産業革命は年々、現実味を帯びています。

アックスタイムズでは、今後もバイオものづくりに関する市場動向に注目していきます。

記事制作 アックスタイムズ

この記事の元となる「体系的に整理された調査報告書」について

調査報告書名:次世代バイオものづくり産業の技術・市場・政策分析 及び 事業戦略立案支援調査 2024年版
発行日   :2024年2月9日
体裁    :PDF_Slide16:9_129pages
調査・制作 :アックスタイムズ株式会社
[目次・調査概要]
https://axetimes.com/report/research-about_chemical-biomanufacturing-technology_policy-and-market_japan_2024-2/
[税込価格]
事業所ライセンス版PDF  99,000円(税抜90,000円)
企業ライセンス版PDF   148,500円(税抜135,000円)
グループライセンス版PDF 247,500円(税抜225,000円)

research-report_22_2024-02
次世代バイオものづくり産業の技術・市場・政策分析 及び 事業戦略立案支援調査 2024年版

脱石油資源に取り組む化学メーカーや自動車関連メーカーのバイオ化動向、147件の国内事例(2021年から2023年)、日本・米国・欧州・中国・韓国の政策調査により、工業化学分野のバイオものづくり市場を分析しました。