COP28:何が話し合われ、どんな成果を得られたのか、その影響とは

2023年11月下旬よりドバイにてCOP28が開催され、約2週間の開催期間を経て閉幕した。今回のCOPでは何が話し合われ、どんな成果が得られたのか。また、今回のCOPはその歴史においてどんな位置づけであると考えられるのか。今回の記事ではこれらを解説する。

COPの意義とその歴史 -主要な会議や採択された文書を解説-

2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が開催された。ここ数年世界的に多発する異常気象や気象災害などを背景として、気候変動に対する関心は年々高まっ…

COP27:「シャルム・エル・シェイク実施計画」の内容、その影響とは

2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクにてCOP27が行われた。このCOPではどんなことが決められたのか、今回のCOPはその歴史においてどんな位置づけであると考え…

この記事の要約

COP28の概要

期間:2023年11月30日〜12月12日
場所:ドバイ(アラブ首長国連邦)

[日本からの出席者]
内閣総理大臣 岸田文雄
環境大臣 伊藤 信太郎
厚生労働副大臣 濵地 雅一
経済産業大臣政務官 吉田 宣弘
外務省、環境省、経済産業省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、金融庁、林野庁、気象庁の関係者
パビリオン出席企業関係者

COP28の位置づけ

今回のCOPは、主に以下の目的を果たすために開催された。

「緩和」「ロス&ダメージ」についてのさらなる議論

「緩和」「ロス&ダメージ」は、前回のCOP27の成果文書「シャルム・エル・シェイク実施計画」に盛り込まれたトピックである。

COP27:「シャルム・エル・シェイク実施計画」の内容、その影響とは

2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクにてCOP27が行われた。このCOPではどんなことが決められたのか、今回のCOPはその歴史においてどんな位置づけであると考え…

「緩和」とは温暖化の原因となる温室効果ガスの排出抑制策などを指す。この内容については以前より議論され、各国で対策がされている。

しかし、シャルム・エル・シェイク実施計画では「現状の対策では不十分であり、悪化していく温暖化に対応できない」と結論づけられた。そこで今回は特に、2015年のCOP15の成果文書「パリ協定」で決定されたいわゆる「-1,5度目標」を達成するためにどんな対策を行うべきかを話し合うと見られている。

「ロス&ダメージ」とは、温暖化を背景とした気候変動によって引き起こされる気象災害による損失などを指す。ロス&ダメージは、COPの歴史の中で昨年の成果文書に初めて明記された。近年多発する気象災害、またこれにより自然や文化遺産が失われていることを鑑み、ロス&ダメージを防ぐためにどんなことをすべきか議論が行われる予定である。

初のグローバルストックテイクの実施

グローバルストックテイク(GST)とは、パリ協定によって定められた仕組みである。-1,5度目標を世界全体で達成するために実施状況をレビューし、目標達成に向けた進捗を評価する仕組みだ。GSTは今回のCOPで初めて実施され、今後は5年ごとに行われる予定である。

GSTの評価結果は、各国の行動や支援を強化したり、国際協力を促進したりするために活用されるとされている。この情報は、各国政府が今後削減目標を更新・強化し、そのための政策を立案するために活用することが求められる。

GSTは以下のプロセスを経て行われる。

  1. 情報収集
  2. 技術的評価
  3. 成果物の検討

このうち1.2に関しては作業に時間を要するため1.はCOP26から、2.はCOP27から行われている。これらをふまえて今回のCOPで議論が行われ、議論をもとに以下の内容がまとめられる。

  • さらなる行動や支援の機会と課題
  • 実施可能な対策と優良事例
  • 国際協力に関する優良事例の特定
  • さらなる行動の強化と支援を促すための政治的メッセージ

そして、まとめられた内容はパリ協定締約国会議(CMA)における決定として採択され、宣言に引用される。

日本からの働きかけ

ここでは、COP28で日本が起こしたアクションを具体的に紹介する。

日本主導で「パリ協定目標(-1.5℃目標)のギャップ」を解消することを宣言

日本は会期中、「世界全体でパリ協定の目標に取り組むための日本政府の投資促進支援パッケージ」を公表した。

これは、脱炭素や適応に対する投資を促進するための基盤を整備することで、以下の3つのギャップを解消することを目的としている。

  • 目標のギャップ…現状では、各国のCO2排出削減目標を積み上げても-1.5℃目標の達成が不可能であること
  • 適応のギャップ…気候変動のリスクに対して、現状の対策では不十分であること
  • 実施のギャップ…計画を実施するための投資が不十分であること

さらに関係国を対象とし、当該政策に関するセミナーを実施。今後日本がこの分野でイニシアティブをとる姿勢を明らかにした。

「ジャパン・パビリオン」の開催

環境省のとりまとめで開催された「ジャパン・パビリオン」は、エネルギー供給や住居などの分野における脱炭素・再生可能エネルギーの利用などに関して、日本の最先端の技術や製品、サービスなどを紹介することを目的としている。

このパビリオンに参加した企業の一覧と展示内容は以下の通り。

カテゴリー会社名・展示内容
エネルギー供給東芝:エネルギーを「つくる」(上流)から「かしこくつかう」(下流)までの一貫したソリューション
パナソニックホールディングス:エネルギーの地産地消のための技術
三菱重工グループ:水素エコシステムのための施設・設備、CO2回収・CO2液化装置・液化CO2輸送船・CO2コンプレッサなど
日立製作所:ITとプロダクトを融合し、顧客の課題に応えるソリューション
住宅・業務大成建設:ゼロカーボンを実現するための技術
ダイキン工業:省エネ50%を達成するためのインバーター技術
SPACECOOL:ゼロエネルギー放射冷却素材「SPACECOOL」
AGC:建材一体型太陽電池モジュール
SBパワー/エンコアードJapan:家庭向け節電(デマンドレスポンス)サービス
モビリティ商船三井:風力エネルギーのための設備
ダイハツ工業:農業・畜産・工業を連携し脱炭素エネルギーを創出する取り組み
産業日揮ホールディングス:ペットボトルなどの原料であるポリエステル(PET)をリサイクルする技術
アサヒグループホールディングス:ビール工場の排水由来のバイオメタンを利用した燃料電池
適応適応コンソーシアム準備室(幹事企業:NEC):防災対策を評価し、気候変動適応策への民間資金流入を促進させるためのDX

主要地域の主張・評価

ここでは、今回のCOPで行われた主要地域の主張・評価を確認する。

国・地域主張・評価
欧州・化石燃料の段階的廃止を主張
・他国にもEUと同様の取り組みを促す
米国・カマラ・ハリス副大統領が「公正、公平で秩序あるエネルギー転換の促進」と題して講演。今後10年間で1兆ドルの投資を行うと表明
・21カ国と合同で、2050年までに原子力のエネルギー容量を3倍にまで増加させると発表
中国・化石燃料の段階的廃止は非現実的だとの考え
・米中会談では「石炭、石油、ガスによる発電の代替を加速する」ことで合意。しかし、化石燃料の段階的廃止には言及されず
インド・モディ首相が演説で「先進国が排出した温暖化ガスによって、途上国が苦しんでいると訴え、「自分だけが得をすればいい、という思考は世界を暗闇に陥れる」と先進国を批判
・途上国の気候変動対策を先進国が支援するよう求める
UAE・化石燃料全般に対するいかなる規制にも反対
・UAEが加盟するOPEC石油輸出国機構(OPEC)は規制に反対、また「化石燃料の消費・生産を抑えるのではなく、排出量抑制に重点を置くべき」と主張。最終的にはUAEの交渉により成果文書を「化石燃料からの脱却」に修正

COP28で行われたこと・決まったこと

COP28の成果文書の中から、今回のCOPを象徴する内容、また今後のCOPにおいても重要視されると考えられるポイントを解説する。

グローバルストックテイクの結果

初めてのGSTが行われ、決定が採択された。この決定には以下の内容が明記されている。

  • -1.5℃目標達成のために、緊急的な行動を行わなければならない
  • 全ガスを対象として、CO2排出量を削減しなければならない
  • 上記2点に対して、各国ごとに事情を考慮しながらも貢献しなければならない
  • 化石燃料、ゼロ・低排出技術(原子力、CCUS、低炭素水素など)への取り組みを行うこと
  • 持続可能なライフスタイルへの移行することの重要性

緩和への対応

COP27で決定された「緩和作業計画」について、今年は初のアクションが行われた。具体的には、化石燃料から再生可能エネルギーへの公正な移行や交通システムの脱炭素化についての対話が行われた。

採択された決定には、この対話の報告「緩和野心閣僚級会合」の議論について留意すること、補助機関会合で進捗評価を行うことが盛り込まれた。

ロス&ダメージへの対応

COP27では、ロス&ダメージに対応するために新たな資金措置(基金を含む)を行うことが決定された。そのため、COP28では開会式全体会合において、基金の基本文書を含む制度の大枠について決定が採択され、日本は基金の立ち上げ経費として1000万ドルの出資を行うことを表明している。

基金は、特に気候変動の影響に対して脆弱な途上国を支援の対象とすること、先進国が立ち上げ経費の拠出を主導する一方、公的資金、民間資金、革新的資金源などのあらゆる資金源から拠出を受けることが決定された。

適応への対応

「適応」はシャルム・エル・シェイク実施計画でも触れられており、上記の緩和やロス&ダメージとも関連する項目である。具体的には、既に起こりつつあることやこれから起こると考えられることに対して、自然や人間関係のあり方を調整することを指す。つまり、現在進行形で起こっているCO2排出や気象災害に対して、どうしていくかという意味合いだ。

実は、パリ協定で定められた適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation、GGA)を達成するための枠組みが採択されている。そしてCOP26・COP27ではGGAを達成するための枠組みが議論され、採択された。この枠組みではテーマ別の7つの目標、適応サイクルについての4つの目標が設定されている。

また、GGAに関する新たな議題を設定し、目標に対する進捗確認のための指標を検討するための2年間の作業計画が立ち上がり、GGAの実現とフレームワークの実施加速化のための議論を行うことが決められた。

化石燃料からの転換を明言

今回の成果文書では、パリ協定で明言された-1.5度目標を妨げている要因、また近年世界規模で多発している気候変動の原因を「化石燃料」であると明言。その上で、化石燃料から再生可能エネルギー・クリーンエネギーへの転換を行うとしている。

具体的には、2050年までに脱化石燃料を実施させること、-1.5度目標の達成のために必須である2020〜2030年までの10年間に脱化石燃料の行動を加速させることを明言している。

前述「主要地域の主張・評価」に掲載した一覧表を見ても分かるように、これまでのCOPにおいては以下のような対立構造が見られた。

化石燃料の使用について「廃止」や「段階的廃止」との合意を得たい先進国
VS
自国の産業を疎外されたくない石油産出国
自国の経済や産業を成長させたい、発展の途中なのに「新興国のつけ」払わされたくない新興国

そして、COPの回数を重ねてもこの構図に大きな変化は見られず、石油の使用についてはあいまいな表現に留まっていた。

そんな中で、最終的に化石燃料が「悪者」と表現され、「今後10年間で脱化石燃料を行う」と数字までもが盛り込まれた成果文書が作成された今回のCOPは画期的といえる。特に今回の議長国・ドバイは世界有数の石油原産国という立場でありながらOPECと交渉を行い、成果文書に持ち込むことに成功した。

これらの点において、今回のCOPは歴史に残る回として記録されるだろう。

COP28を日本はどう受け止めるべきか

それでは、COP28の成果を日本はどう受け止め、どのように行動していくべきだろうか。

まず、今回明確となった「化石燃料からの転換」をより強力に実行すべく、民間企業や消費者が再生可能エネルギーの開発・利用ができるよう立法・政策面で支援していく必要がある。

また、今回のCOPでも「化石賞」が発表された。化石賞はドイツの環境NGO「Climate Action Network」が気候変動対策に消極的な国に贈る賞であり、日本は4年連続でこの賞を受賞している。これは一見不名誉なものであるように感じるかもしれない。しかし、今後の取り組みやその国際的なアピールについて改善の余地が大いにあるととらえるべきであり、今後も官民を挙げて実行するだけでなく、その内容や成果を内外へアピールする姿勢が求められる。

COP28のまとめ

今回のCOPをまとめると、以下の内容となる。

  1. 初めてGSTが行われ、-1.5度目標をより強力に具体的に推進すべきとの提言がされた
  2. 成果文書に「今後10年間で脱化石燃料を行う」と記載されたことは画期的である

今回はCOP28で行われたことやその意義、また成果文書の内容などを紹介した。文書に「脱化石燃料」と明記されたこと、また化石賞の連続受賞という結果から考えると、今後日本は石油燃料の削減と再生可能エネルギーの利用に舵を切っていかなければならない。

axetimes Bizは今後もより一層、COPおよび日本の行政府の動きにも注目していく。

記事制作 津島亜海

CO2ケミカル・燃料化技術の最前線と戦略・市場の将来展望 2023年版

当該調査はCO2を資源として捉え、ケミカル利用、燃料利用、および鉱物・化成品利用の3分野にて、全10品目の個別市場分析を実施しております。2050年までの国内市場規模予測、および定性的な市場動向を整理しています。