2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクにてCOP27が行われた。このCOPではどんなことが決められたのか、今回のCOPはその歴史においてどんな位置づけであると考えられるのか。今回の記事では、これらを解説する。

COPの意義とその歴史 -主要な会議や採択された文書を解説-

2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が開催された。ここ数年世界的に多発する異常気象や気象災害などを背景として、気候変動に対する関心は年々高まっ…

COP27の概要

期間:2022年11月6日〜20日
場所:シェルム・エル・シェイク(エジプト)
日本からの出席者:西村 明宏 環境大臣
外務省、環境省、経済産業省、財務省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、金融庁、林野庁、気象庁の関係者

日本からの出席者の働きかけ

COPのような大規模国際会議は、通常数日〜数週間にわたって開催される。会期中には全ての出世国担当者が集まる会合だけでなく、閣僚級などある程度の権限を持つ者が集まり、会議を行う機会も多い。

COP27の第2週目に行われた閣僚級サミットでは、日本の出席者の一人である西村環境大臣が以下の内容の声明を発表した。

1. 主要経済国に対して1.5℃目標と整合した排出削減目標を作成することを呼びかけること

1.5℃目標とは、COP26で採択された「グラスゴー気候合意」に盛り込まれた、世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える努力を追求することを表している。

2. 日本は今後10年間で150兆円超のGX(グリーン・トランスフォーメーション)投資を実現すること

GXとは、化石燃料を前提とした社会・経済の仕組みを、クリーンエネルギーを前提とした ものに変えていくことを意味する。

3. 脱炭素につながる新しい国民運動を開始したこと

環境省の主導により、2022年10月より「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民 運動」を開始。具体的にはテレワーク、地産地消、太陽光発電など既存エネルギーの使用を減らし、クリーンエネルギーの製造や使用を増やすための活動を推進していく。

4.「アジア・ゼロエミッション共同体」構想の実現を目指すこと

日本だけでなく、アジア全体で既存エネルギーからクリーンエネルギーへの移行を実現する。その具体例として、2023年3月には東京で閣僚会合と官民投資のためのフォーラムを開催予定である。

西村大臣がこのような声明を発表した背景には、COP締約国の中での日本の存在をアピールし、採択される文書に日本からの要望を反映しやすくし、ひいては締約国間でのイニシアチブをとることにつなげるねらいがあると考えられる。

COP27で行われたこと・決まったこと

約2週間の会合期間を経て、COP27ではどんなことが決まったのか。今回のCOPの成果として採択されたのは、「シャルム・エル・シェイク実施計画」と題された文書である。

それでは、この文書はどんな内容が盛り込まれているのだろうか。

その内容を解説する前に、まずは昨年のCOP26で採択された「グラスゴー気候合意」の内容を再確認しておきたい。なぜなら、シャルム・エル・シェイク実施計画はグラスゴー気候合意の内容を踏まえた上で、その内容を着実に実行するための文書だからだ。

COP26は2021年にイギリスのグラスゴーで行われ、「グラスゴー気候合意」が採択され終幕した。この文書の最大のポイントは、「産業革命前からの気温上昇を2100年までに1.5℃に抑える」という目標が明記されたことである。

シャルム・エル・シェイク実施計画は、このグラスゴー気候合意の内容を踏まえた上で以下の分野で締約国の政策の強化を求めている。

科学・緊急性

地球の平均気温が2℃上昇した場合と1.5℃上昇した場合では、後者の方が気候変動の影響が大幅に減少することを再確認。その上で、気温上昇を抑えるために科学技術が利用されることを歓迎する。

野心向上・実施

「シャルム・エル・シェイク実施計画」および京都議定書やパリ協定などに従い、温室効果ガス削減や気候変動への対応について、科学技術を用いた働きかけを強く行うことを求める。

エネルギー

締約国が即効性かつ持続性のある温室効果ガスの削減を行う必要があることを強調。その上で、温室効果ガスの削減、再生可能エネルギーの利用、クリーンエネルギーへの転換、エネルギーミックス(低排出ガスと再生可能エネルギーなどをミックスして供給・使用すること)、クリーエネルギーシステムをより安全で信頼性が高いものへ転換することなどを求めている。

特に、エネルギーシステムの転換はこの10年(2020年〜2030年)の間に速やかに行われることを強く求めている。

早期警戒システム

この章では、地球規模の気候変動や気象災害を観測し、変化や災害をいち早く察知して対応することの重要性について述べられている。

当文書は、特に途上国を含む世界の3分の1の国(アフリカ大陸においてはその60%)が気候情報へアクセスできず、気候変動や気象災害を早期に察知できないことを問題視している。これへの対策として、気象観測者のコミュニティを形成すること、このコミュニティによる情報提供を推奨している。

これらのソリューションだけでなく、当文書では2020年3月23日の世界気象デーにてグテーレス国連事務総長が1.5℃目標や温室効果ガスの削減、早期警報システムの重要性について呼びかけたことを歓迎している。その上で、今後5年以内に異常気象と気候変動に対する早期警報システムによるベネフィットを世界中の人々が得られるようにすることを求めている。

緩和

今回の文脈における「緩和」とは、温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を抑制することや、そのための取り決め・取り組みなどを指す。

当文書では気温の上昇を1.5℃以下に抑制するためには、迅速かつ持続的に温室効果ガスの排出を削減しなければならないことを強調し、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を2019年比で43%削減する必要があるとしている。

これを行うために、締約国に対して低排出エネルギーシステムへ移行するための技術の開発・展開・政策の採用を加速することを要求する。また、クリーンな発電およびエネルギー効率化を拡大し、低排出エネルギーシステムへ移行するための技術の開発や政策もあわせて要求している。

適応

今回の文脈における「適応」とは、既に起こりつつあることやこれから起こると考えられることに対して、自然や人間関係のあり方を調整することを指す。

当文書では、現在各国で行われている適応が、現在そしてこれからもたらされる気候変動による悪影響に対応できるレベルではないと断言し。これらの間に存在するギャップを深刻に懸念している。

そして、このギャップをなくすために特に先進国に対して科学的なアプローチ、資金、技術移転(先進国が開発途上国に対して金銭面、技術面などでサポートすること)などをより強化することを求めている。

ロス&ダメージ

ロス&ダメージとは、気候変動によって引き起こされる台風や干ばつ、山火事などの気象災害による損失(ロス)や、自然などが失われること(ダメージ)を指す。COPの歴史の中では、前年のCOP26で初めて言及された。

当文書では気候変動の影響でさまざまなロス&ダメージが発生し、近年その頻度や被害範囲が増大していることを懸念している。また、ロス&ダメージのせいで居住範囲や文化遺産が失われ、経済的・文化的な損失が発生していることを改めて表明している。

ただ、当文書はロス&ダメージに対応するためには財政的コストが発生することも認識している。そのため、Cロス&ダメージ支援のための資金面の措置や基金の設置、COP25で設立した「サンティアゴ・ネットワーク」(技術支援を促進するネットワーク)の稼働をサポートするために各国が取り決めを行うことを歓迎するとしている。

気候資金

これまでに挙げてきたことを実現するためには、当然ながら莫大な資金を必要とする。例えば、当文書によれば、2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを達成する場合、2030年までに年間約4兆ドルを再生可能エネルギーへ投資する必要があると試算している。

このような資金を捻出するためには各国の政府だけでなく、中央銀行、商業銀行、機関投資家、その他の金融関係者を巻き込み、金融システムや資金プロセスを変革する必要があると述べている。

シャルム・エル・シェイク実施計画のねらい

それでは、シャルム・エル・シェイク実施計画を採択したことにはどんな意味があるのだろうか。ここでは、この点について考察したい。

まず、いわゆる1.5℃目標を確実に実行したいというねらいがあるといえる。そもそも、温度目標を2℃から1.5℃へ変更したこと自体が、気候変動に対してより厳しい目標を持って対応したいということの現れといえるだろう。その上で、2030年までという期限をもうけて中間目標を設定したことは、1.5℃目標を着実に達成したいことの表れといえる。

また、地球温度やクリーンエネルギーだけでなく、気象災害によるロス&ダメージを議題としているのは、以下の理由が考えられる。

  • 気候が上昇し、海水面が上昇。それにより記録的な高温、熱波や大雨、干ばつなどが引き起こされているメカニズムが解明されつつあること
  • これらが発生することにより、死者や行方不明者、けが人、居住地を追われるなどのロス&ダメージが実際に発生していること
  • これらを解決するためには、温暖化問題と同じく一国が対応するだけでは不十分であり、世界各国が技術面・資金面などで協力する必要があること

シャルム・エル・シェイク実施計画が与える影響

今回の文書の特徴の一つは、「科学技術をもって(気候変動や気象災害に)対応する」というフレーズが繰り返されていることだ。

そのため、今後国内・国外企業や大学、研究機関が気候変動や気象災害に関する研究・取り組みを推進するための法律・政策などがよりいっそう強化されることが考えられる。

また、特に気象災害を解決するのに必要な金額が明記されていることも特徴といえる。締約国の中で特に先進国には、資金面で貢献されることが期待される。そのため、今後政府だけでなく金融機関が資金を拠出したり、資金を確保するための取り組みを行ったりすることが予想される。

まとめ

今回はCOP27で行われたこと、また採択されたシャルム・エル・シェイク実施計画の内容や考察を紹介した。先に述べたように、当文書をもって今後気候変動や気象災害対応を促進するための動きがあることが考えられる。そのため、今後はCOPのみならず、日本の行政府の動きにも注目していきたい。

記事制作 津島亜海

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