2020年に、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言した。
それにともない、企業は脱炭素の考えに基づいて事業計画や経営戦略を策定する「脱炭素経営」を行うことが求められている。
炭素会計は省エネ法や CDP・TCFDなどさまざまな基準に基づいて行う必要があるため、やみくもに目標を定めたり報告書を作成したりすることはできない。事前に調査や準備を行い、ツールなどを導入する。その過程で効率よく情報を得られる機会の一つが、大規模産業展である。
脱炭素経営EXPOは、カーボンニュートラルを実現するゼロカーボンコンサル、二酸化炭素排出量の可視化、コーポレートPPA、省エネソリューションなど脱炭素のためのソリューションが一堂に介する専門展。企業経営者のみならず総務部門や経営企画部門、サステナブル推進部門の担当者などが来場する場だ。
近年、このような大規模展示会は新型コロナウイルスの影響を受け、中止やオンラインでの開催を余儀なくされているケースが多い。しかし脱炭素経営EPXOは2021年の第1回からオフラインでの開催を続け、担当者が対面でコミュニケーションをとれる場を提供している。
8月31日から3日間にわたって開催された2022年の第2回 脱炭素経営EXPO。アックスタイムズは最終日の9月2日に会場へ足を運んだ。今回は、当EXPOのレポートをお届けする。
[イベント概要]
イベント名:第2回 脱炭素経営EXPO【秋】
開催期間:2022年8月31日(水)~2022年9月2日(金)
アックスタイムズ訪問日:9月2日(金)
会場:幕張メッセ 国際展示場 展示ホール4〜7
多くの企業が炭素会計ツールをリリース。企業規模ごとに特徴も
まず今回のEXPOの特徴として挙げられるのは、炭素会計に関する出展が非常に目立っていたことだ。今回はNTTデータが2020年秋にリリースする「C-Turtle」を、三井物産の100%子会社e-dashが2020年3月にリリースした「e-dash」をPRしていた。
また、住友商事グループのSlerであるSCSKは「Persefoni」や「Domo」といったツールの代理店として、ツールの利用だけでなく包括的なソリューションを提供できることをアピールしていた。
炭素会計ツールを出展しているのは大企業だけではない。ホバーバイクや産業用ドローンの開発を手がけるスタートアップ・ A.L.I. TechnologiesからMBOにより独立した株式会社ゼロボードの「zeroboard」は広いブーズを設け、ひときわ大きな存在感を放っていた。
また、炭素会計を出展する企業の特徴として、ただブースを設置して社員を配置するだけでなく、デモンストレーションやユーザーを招いたトークセッションなどを積極的に実施していたことが挙げられる。アックスタイムズもいくつかの会社のブースに立ち寄り、トークセッションを聞く機会を得られた。
炭素会計ツールは導入後も長く利用するもの。それゆえに、どの企業もツールを使っている様子を具体的に想像できるような仕掛けをさまざまな方法で実施していることを肌で感じられた。
大手企業の再生可能エネルギーに関する取り組みは活況を見せる
今回の脱炭素経営EXPOは単独開催ではなく、第2回 PV EXPO(国際太陽光発電展)・第2回 WIND EXPO(国際風力発電展)と同時開催であった。そのため、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーのソリューションを出展する企業ブースを多く目にした。
今回出展している企業は再エネによる発電そのものだけでなく、電気売買の仲介や発電装置の点検など再エネ周辺のソリューションを提供する企業が多く見られた。ちなみに、これらの多くが大企業によるものであった。
ここでその一例を紹介する。
企業名 | 電力の種類 | 事業概要 |
NTTコムウェア | 太陽光発電、風力発電 | 送電ルート構築のための調査から工事までをワンストップで提供 |
関西電力 | 太陽光発電(中長期的に洋上・陸上風力発電) | 太陽光発電、洋上・陸上風力発電などの際エネ電源の開発 法人が太陽光発電の設置や運用を支援 |
丸紅新電力 | 太陽光発電 | 法人・個人が太陽光によって発電した余剰電力の買い取りを行い、脱炭素経営・再エネを目指す企業に供給 |
アメリカではスタートアップが太陽光発電や風力発電、さらには原子力による発電に着手しているという話を聞く。日本でもこの分野に参入するスタートアップは皆無ではなく、すでに数社が事業を手掛けているようだ。いずれ、脱炭素EXPOでもスタートアップのブースが多く見られるようになると、脱炭素や再エネ業界がより活性化するだろう。
電力会社の取り組み
今回、会場の中でもとりわけ大きなブースを設置し、さまざまなソリューションを出店していたのが電力会社。電力会社のソリューション特徴は、会社の規模や提供できる豊富なソリューションを生かしてクライアント企業の脱炭素経営を包括的にサポートできる点である。
今回の脱炭素経営EXPOでは、東北電力と関西電力が出店していた。その主な出店内容は以下の通り。
関西電力
・空調制御・エネルギーマネジメント
・電力転換・非化石燃料か(アンモニア・水素など)
・クリーンエネルギー証書購入(Jクレジット・グリーン電証書・I-REC)
・再生可能エネルギーでの発電推進(風力など)
東北電力
・FIP、オフサイトPPA、自己託送事業など再エネ需要運用
・FIPシミュレーション支援
・発電量予測提供
・電源開発支援サービス
アックスタイムズは今回、特に関西電力のブースで詳しく話を聞くことができた。担当者の話を聞きながら飾られている写真に写っている洋上風力発電の装置が海沿いに並んでいる光景を見ると、そのダイナミックさに「未来」を感じ、気持ちが高まるのを感じた。
これらのうち、炭素会計と電力会社の取り組みは別記事で詳しく取り上げる。
まとめ
今回の第2回 脱炭素経営EXPO は約400の企業が出展。これまでは脱炭素というと「大企業がCSRやIRのために行うもの」という印象すらあったが、出展数や来場者の多さを見ることで、脱炭素経営へ向けた取り組みがすでに本格化・活性化していることを肌で感じとれた。
また、今回のEXPOは新型コロナウイルスの感染状況が下火になりきらない状況での開催となった。会場も来場者も基本的な感染対策を行ったうえで開催され、多くの来場者でにぎわっていた。「コロナウイルスの流行がなくとも、これくらいの来場者はあっただろう」と感じられるほど、静かな熱気のある空間だった。
出展者と来場者が直接顔を合わせるイベントの醍醐味の一つは、その場で商談が始まることもあるライブ感、スピード感だろう。これからコロナの流行がどのようになっていくかは不明瞭な部分もあるが、徐々にこのような機会も日常のものとなっていくのではないだろうか。
注:この記事は2022年11月2日に制作されました
記事制作 津島亜海
脱炭素の仕組み「クレジット・電力証書・ラベリング・イニシアチブ」に関する調査
脱炭素を促す「クレジット・電力証書・ラベリング制度」の網羅的な内容、多様な「イニシアチブ」とトレンド、日本の政策を整理しました。
GX推進に関連する仕組みについて、この一冊で体系的な理解を深められます。