市場調査の裾野を広げることで、挑戦者を支援したい

2021年4月に設立されたアックスタイムズは、市場調査に関する研修事業やレポート販売、個別のリサーチやコンサルティングを提供する情報サービスカンパニーとして2021年4月に設立された。

代表・橋本規宏は市場調査の結果やノウハウを提供するだけでなく、市場調査やノウハウを通して新規事業開発担当者やベンチャー企業、スタートアップを支援したいという気持ちからアックスタイムズを設立。

今回は橋本に、起業するまでのストーリーや市場調査に対する思い、アックスタイムズが成し遂げたいことなどを聞いた。

聞き手 津島亜海

2021年4月にアックスタイムズ株式会社を設立

ーーアックスタイムズを起業するまで、どんなことをされていましたか?

大学は経済学部でした。英語がちょっと得意でTOEFLの基準をクリアできたので、4回生の時に1年間交換留学をさせてもらえることになりました。

現地の大学で初めて市場調査を知りました。その時「情報を調べてレポートにして、それでお金がもらえるなんて、こんな面白いものがあるんだ」と思ったんです。大学では実際に市場調査をやる機会がありました。やってみて「この情報はこんな人が欲するだろうな」と具体的にイメージができ、手応えを感じました。

留学中から調査会社への就職を考えていて、帰国して本格的に市場調査の会社について調べてみたところ、たまたまある調査会社が求人を出していました。なんとか採用されて入社し、そこから16年間勤務して2020年に退社しました。そして、2021年4月にアックスタイムズ株式会社を設立しました。

市場調査の裾野を広げる活動でお客様の成功を支援する

ーーアックスタイムズの事業内容は?

設立した時は、研修事業からスタートしたんです。日本には380万もの企業がありますが、その中で市場調査を定期的に活用している企業は約1万社、全体の0.2%ほど。つまり、ほとんどの企業が適切にマーケットを把握せずに事業を行っていることになります。

ここに見ていただきたいデータがあります。新規事業の成功要因と失敗要因を調査したものです。成功要因の中で第一位は「顧客ニーズが得られた」で、失敗要因の第一位は「顧客ニーズが無かった」なんです(※1)。これは新規事業だけでなく既存の事業にも当てはまります。

新規事業開発の成功要因調査結果
出所:新規事業開発の進め方ポイント・成功プロセスを評価するアンケート調査 2022
新規事業開発の失敗要因調査結果
※1. 出所:新規事業開発の進め方ポイント・成功プロセスを評価するアンケート調査 2022

このデータから分かることは、商品やサービスを形にする前にすでに勝負はついているということです。どれだけ適切にリサーチできたかで、成功するかどうかが決まってしまいます。

そこで、きちんと市場調査を行える人が増えれば、またきちんとしたデータを提供すれば世の中の失敗を減らせるのではないかと考え、市場調査の研修事業を始めました。研修を受けてくださった企業や個人からの依頼で個別に調査を受託することもあります。

さらに、個別の調査でさらに支援が必要な場合、コンサルティングを行うこともあります。調査の受託とコンサルティングを合わせて、当社では「伴走型情報支援サービス」として提供しています。

それ以外にも、個々のリサーチから共通のニーズを吸い上げて法人向けにレポートを販売しています。また、市場調査になじみを持ってもらうために使いやすいデータを使いたい形で販売するサービスを近々リリースする予定です。

挑戦する人を情報面から支援したい

ーー事業によって違うかもしれませんが、ターゲットとしている層はどんな方ですか?

共通しているのは「挑戦する人」ですね。アックスタイムズはイノベーションを情報で支援する会社でありたいと考えています。

当社のリサーチやコンサルティングは主に新規事業開発の部署や分野で利用されます。研修事業も、新規事業で失敗をなくしてほしいという気持ちから手掛けています。当社の事業は挑戦者、新規事業開発担当者やベンチャー企業、スタートアップなどに対するサービス事業だと感じています。

オフィスが入るビルの前にて
オフィスは大阪市イノベーション拠点立地推進事業の支援を受けて開設された「billage OSAKA」

今手掛けていることが実現できているのは、たくさんの人とつながったおかげ

ーー創業から約1年半で、たくさんの事業をスピード感を持って展開されていますね。

まだまだだな、と思いながらやっています。やることがめちゃくちゃあるので、自分では進んでいる感覚がないんですよね。毎日ひたすら亀のような動きで進んでいるなぁという感じです。

でも、今手掛けていることが実現できているのは、たくさんの人とつながったおかげだと思います。僕はこの仕事を通じて知り合ったみなさまを仲間だと思っていて、自分だけでなく仲間と一緒にやっていくという気持ちなんです。だから会社のロゴは「axetimes & partners」、「パートナーズ」というフレーズを入れました。

アックスタイムズ株式会社
アックスタイムズ株式会社 会社ロゴマーク

僕は今までにリサーチしかやってこなかったんですよ。でも情報を触っていて苦痛に感じたことはなくて、いつも「こんなことがあったんだ、こんな風に役立つんだ」と思います。 だからこの仕事は好きですね。

ただ、現在は会社の会計や法務といったコーポレート関係の仕事を自分でやっているのですが、これらは得意ではないので苦痛ですね。でも、将来仲間を増やしていく過程で仲間を守っていくために必要になるんだろうなと思ってやっています

市場調査業界は18年目、多彩なリサーチ方法を経験済み

ーーアックスタイムズの強みはどんな点ですか?

市場調査会社は全国に約300社あり、それぞれに専門性があります。また医療業界や食品業界など、対象とする業界を絞って事業を手掛けている会社も多いです。

リサーチ業界が取り扱う分野は、主に消費財と生産財に分類できます。消費財とは主に化粧品や食品、医薬品など。生産財はITや建物、機材などが当てはまります。

僕はどちらかというと生産財が得意です。業界歴はもう18年になりますが、こんなにリサーチに携わっている人はいないんじゃないかと言えるほど多彩なリサーチ方法を経験しています。海外のリサーチに携わった経験もあります。

市場調査会社の中には研修やセミナーを行っているところもありますが、その多くは自社のサービスのPRが目的です。しかし、当社の研修は「学べば自分たちでもリサーチができるようになるよ」と知ってほしくて行っているものです。こんなことをしている会社は珍しいんじゃないでしょうか。

さらに、近々リリースされる予定のデータ販売サービスは先日特許を取得しました。これは当社の強みになると思います。

また、自分で企画を考えてリサーチを行い、レポート化して販売することも行っています。自主企画は差別化しやすいですし、考えること自体も好きです。

情報面からカーボンニュートラルを推進する

ーー手掛けているリサーチはどんな分野が多いですか?

たまたまだとは思いますが、再生可能エネルギーや炭素会計、カーボンニュートラルといった分野のお客さまが多いです。将来を見据えた時に解決したいことはいくつかありますが、その中でもこれらが一番大きなテーマだと思うので中心的に取り組んでいますし、得意だとも感じています。

特にカーボンニュートラルは世界各国の首脳が集まって決めたことですから、日本だけでなく世界中の国や企業が目標として取り組んでいますよね。この大きな流れに携われるのは幸せなことだと思います。

日本企業が世界で輝くための手助けをしたい

ーー橋本さんは長年市場調査業界に関わっていますが、この18年でどんな違いや変化がありますか?

市場調査業界に関わり始めた2000年代前半の頃は決して景気がよかったわけではありません。しかし日本企業は世界市場で高いシェアを占めており、どんな業界でもトップ5には複数の日本企業がいました。

今は中国や韓国などの企業が台頭して、日本企業をシェアの上位に見つけることが難しい状況です。日本企業側からも海外進出のハードルが高いといった意見を聞きます。未知の世界にチャレンジすることが怖いと感じるのかな、との印象を受けます。

今後は海外のリサーチ情報を提供することで情報の面から日本企業を支援し、再び日本企業が世界で輝くための手助けをしたいです。

挑戦できることは幸せ

ーー創業期に大変だったことはどんなことですか?

一人で全部やっているので、今でもめっちゃ大変ですよ。起業する時に本当は仲間を誘いたかったんですが、仲間をリスクにさらすわけにはいかないと思ったので一人で起業することにしました。

今でもやらなきゃいけないことが山積しているし、コーポレート関係のことなど好きじゃないこともやらなきゃいけない。どんなけ勉強しなあかんのかと思います。

でも、自分にはあまり今がどうこうっていう発想があまりないんですよね。幸せって3年平均で決まると思っているので、今がどん底でも3年平均で見たらきっとなんとかなってるんだろうと思っています。 めちゃくちゃ大変だけど、わりと幸せな気持ちです。

市場調査は中長期展望の解像度を高める

ーーお話を伺っていると、橋本さんは長期的な視野でものごとを見ている方だという印象を受けるのですが、なにかきっかけや理由があってのことでしょうか?

市場調査ではよく2030年はどうか、2040年はどうなっているかと中期的・長期的な視野で物事を捉えることが多いんです。だから普通の人より今がどうこうという感覚が薄いかもしれないですね。短期的な利益よりも、中長期的に利益を得られたらいいかなと。

実際に、新規事業開発の成功率は1年目で16.7%、2年目で36.8%、3年目で38.9%、4~6年目で43.5%というデータがあります(※2)。少なくとも2年間は我慢しなければいけないんですよね。ちょっとやってダメだったからといって止めてしまうのはもったいない。また、周りの評価は1年くらいでは追いつかないんだなとも感じます。

経過年数別新規事業開発成功率
※2. 出所:新規事業開発の進め方ポイント・成功プロセスを評価するアンケート調査 2022

未来に感謝される情報パートナーでありたい

ーー橋本さんのその考え方は、会社のビジョンなどにも影響を与えていますか。

当社のビジョンは「未来に感謝される情報パートナーでありたい」です。

なぜこれを掲げたかというと、市場調査はすぐに結果が出るものではないんですよね。リサーチをしてお客さまに渡した段階ではコストであって、その後に市場調査を元にマーケティングや販売がなされて初めて利益に結びつく。だから結果が出るのはリサーチから2年後とか、5年後という時もあります。

だから未来に感謝されたらいいかな、新しいマーケットを作れたらそれでいいかなと思います。ただ、お客さまの事業は成功させないといけないし、成功してほしいと常に考えています。

リサーチで社会課題を明らかにする

ーーアックスタイムズが手掛けている事業は、社会課題を解決できると感じますか?

直近で手掛けていることだとカーボンニュートラル関連のリサーチがそうだと思います。

また、今取り組んでいるものの一つにマンションの老朽化問題があります。マンションは今や築30年〜40年の建造物が全体の半数を占めています。そうすると管理の問題が出てきますよね。

リサーチによって「こういう問題がありますよ」と世に知らしめることで、ソリューションを考える企業が出てくると考えています。

ソリューションを考える会社や挑戦する会社を支援していきたい

ーー確かに、近年では子どもの貧困問題やヤングケアラーの問題など、これまでに知られていなかった、あるけれども放置されていたことに対して、具体的な数値を伴うことによって知られるようになり、ソリューションが生まれたことは多いように感じます。

会社だって数字がなかったら動かないですからね。なんとなくこうかな、じゃ動かないんですよ。ストーリーだけでなく数字を見せて「現状はこうで、こうなっていきます」と言うと上の人たちははんこを押すんですよね。

だから、新しいことに挑戦する人の背中を押すことが当社の役割だと考えています。社会課題を数字でクリアにすることにより、ソリューションを考える会社や挑戦する会社を支援していきたいです。

オフィスの会議室にて

チャレンジするのに場所は関係なく、情報は場所を超える

ーー橋本さんは大阪で起業されていますが、その理由は?

僕は大阪の茨木市で生まれ育って、留学していた時以外はずっと大阪に住んでいました。なので、大阪というか関西圏をベースにしたいという考えがありました。

チャレンジするのに場所は関係ないし、情報は場所を超えると信じています。だから、東京で起業しなくても、普通の人でも、一歩一歩前に進んでいければサービスやマーケットを作れると示したいです。

市場調査には社会や事業を動かす力があり、裾野を広げる

ーー今後はどんな事業を展開していきたいですか? また、どんな会社にしていきたいですか?

僕は市場調査の力を信じていて、社会や事業を動かす力があると思っています。これしかやってこなかったこともあり、ただただ市場調査の裾野を広げることを続けていきたいです。

市場調査のノウハウを具体的に学んだことのある人は、日本の人口で1%くらいだと思います。だからこそ方法を学ぶことで失敗を減らせるし、チャレンジする人が増えるのではと考えています。

また、市場調査ができる人を増やすことで文系人材の価値を高めたいという気持ちもあります。エンジニアなど理系人材には、スキルや専門知識を生かした副業や兼業を行っている方も多いですが、今までは文系人材が専門知識を生かせるサービスは非常に限られていました。そこで当社は文系人材でもスキルや専門知識に自信のある方に活躍の場所を提供できればと考えています。

今度リリースする使いやすいデータを使いたい形で販売するサービスは、データを販売するだけでなく、リサーチを行った人に直接コンタクトをとって追加で調査を依頼できます。つまり、エキスパートをマッチングするサービスなんですね。このサービスは単なるデータの販売だけでなく、リサーチ人材に自身のキャリアになって働く場所を提供し、文系人材の価値を高められるとも考えています。

最後に、アックスタイムズに仲間を迎えたいと考えており、募集しています。市場調査業界や信用調査会社、コンサルティング業界などの経験があり、専門知識をお持ちで業界整理のできる方、一緒に企業のイノベーションを支援できる方を求めています。

自分で会社を設立して事業を行っている以上、僕自身も挑戦者だと思っています。なので、新しいことに挑戦する皆さまの思いを汲みながら挑戦を支援していきたいですね。(終)

※1・2…アックスタイムズ調査レポート「新規事業開発の進め方ポイント・成功プロセスを評価するアンケート調査 2022」より

注:このインタビューは2022年9月22日に実施されました

記事制作 津島亜海