2022年8月31〜9月2日に開催された「第2回 脱炭素経営EXPO」の会場で目を惹かれたものの一つに、電力会社のブースが挙げられる。電力会社は単に大きな面積のブーズを出展して目立っていただけでなく、カーボンニュートラルに関するさまざまなソリューションを提示しており、axetimes Bizとしても興味深く見学した。

今回は、「第2回 脱炭素経営EXPO」で東北電力・関西電力の2つの電力会社がどんな内容を出展していたのかを紹介する。そして、そこから見られるそれぞれの電力会社のねらいを分析したい。

[イベントレポート]第2回 脱炭素経営EXPO | アックスタイムズBiz

脱炭素経営EXPOは、カーボンニュートラルを実現するゼロカーボンコンサル、二酸化炭素排出量の可視化、コーポレートPPA、省エネソリューションなど脱炭素のためのソリュー…

関西電力の出展内容

関西電力の出展内容を紹介したい。

ゼロカーボンパッケージ

法人がゼロカーボンを実現するソリューションをワンストップで提供する「ゼロカーボンパッケージ」。これは、関西電力が提供するさまざまなソリューションの中から、クライアントがニーズに合わせて導入したいものを選べるようになっている。

ゼロカーボンパッケージの具体的なソリューション

それでは、具体的にゼロカーボンパッケージではどんなソリューションを提供しているのだろうか。

関西電力ではCO2を「減らす」「置き換える」、また「クリーンなエネルギーを作る」の3つのカテゴリーに分けてソリューションを提供している。

  1. CO2排出量を減らす
    「減らす」では電力使用量を予測し、省エネにつながる行動をアドバイス。また、AIで空調を制御し、余分な消費電力を抑えるサービスも。これらを関西電力では「エネルギーマネジメント」と呼んでいる。
  1. CO2を置き換える
    証書を発行することで、実質的に再生可能エネルギー由来の電気に置き換えるサービスを行っている。また、法人の施設の空調や給油をCO2排出量の少ない機器に置き換えることも可能。
  1. クリーンなエネルギーを作る
    法人の施設に設置した太陽光発電の設置・運用・メンテナンスを代行する。発電した電気を蓄電するシステムも提供している。

関西電力のブースで聞いたところ、この中で顧客から一番人気があるのは証書を発行する事による再生可能エネルギーへの置き換えだそうだ。人気の理由はやはり「簡単に実行できるから」とのこと。

また、病院やショッピングモールなど、大人数があつまる施設を持つ顧客からはエネルギーマネジメントや空調の置き換えなどのハード面のソリューションも好評だと話してくれた。

再生可能エネルギー開発

関西電力は、再生可能エネルギーを発電できる施設の開発にも積極的に取り組んでおり、2040年までに500万kWを発電することを目的としている。現在、洋上・陸上風力の増設に取り組んでいる。

東北電力の出展内容

今回の脱炭素経営EXPOと同会場・同日程で開催されていた「スマートグリッドEXPO」。東北電力はこちらのEXPOに出展していた。

スマートグリッドとは、ITを活用して電気を送る供給側と電気を必要とする需要側の双方から電力量を調整することを指す。この技術は火力発電や原子力発電といった既存のエネルギーはもちろんのこと、再生可能エネルギーをスムーズに効率よく供給するために欠かせない技術だ。

こちらの展覧会には、スマートグリッドを推進するための技術が一堂に介していた。東北電力のブースから、axetimes Bizが気になったものを紹介する。

再生可能エネルギーアグリゲーションサービス

東北電力の「再生可能エネルギーアグリゲーションサービス」は、再生可能エネルギーを発電している事業者が、スムーズに電力を売れるようサポートするサービスである。

従来は、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取る「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」が存在していた。これは導入コストの高い再生可能エネルギーの導入を目的とした制度であった。

しかし、この制度は2019年半ばごろから順次終了となり、2022年4月からは新しい制度が始まった。それが「フィードインプレミアム制度(FIP制度)」である。

FIP制度は、FIT制度のように再生可能エネルギーを固定価格で買い取ることはない。発電事業者が卸市場などで売電する際、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進する制度だ。

これが始まったことにより、再エネ事業者は発電量の予測に基づく発電計画の提出や、発電計画と実際の発電量の差に応じた料金の精算などを負担せざるを得ない状況となっている。

東北電力はこれらの課題を解決する代行サービスを提供している。具体的な内容は以下の通りだ。

  • 発電量予測および発電計画策定・提出の代行
  • インバランス料金を東北電力が負担
  • 電力取引市場における売電の代行

VPP事業

近年、企業や家庭に蓄電池や電気自動車が普及しつつある。これらをIoT技術でつなぎ、遠隔制御を行うことで、電力の需要と供給のバランス調整に活用するというアイデアがある。

これは、さまざまなエネルギーリソースを1つの発電所のように活用することから、「VPP(Virtual Power Plant・仮想発電所)」と呼ばれている。

東北電力は、主に災害時の電力供給を目的としていくつかの自治体とVPPの実証実験を行っている。また、今後は個人の家庭で発電した電気を買い取り、地域社会に供給する仕組みを強化していきたいそうだ。

なぜ、電力会社が再生可能エネルギーを推進するのか

ここで、なぜ電力会社が再生可能エネルギーを推進しているのかをaxetims Biz の視点で解説する。

化石燃料を大量に消費しているため

現在、日本のエネルギー供給で最大の割合を占めているのは化石燃料だ。2021年においても、依然として80%以上の割合となっている。これらは当然、電力会社が保有する火力発電の燃料として使用されている。そのため、電力会社は日本で最もCO2を排出している企業の一つということになり、CO2削減に対して大きな責任を負っているのだ。

大企業のメリットを生かし、再生可能エネルギーを促進

電力会社は発電所の建設を手掛けた経験があるため、大型施設を建設できるノウハウを持っている。さらに送電システムの建設や管理ノウハウもある。そのため、これらを再生可能エネルギーの分野に転用すれば、発電や管理を効率よく行えると考えられる。

再エネはまだまだ供給できるエネルギーの絶対量が少ないため、ノウハウのある企業が参画することは供給量を高める方法の一つといえる。

それぞれの電力会社のねらい

それでは、各電力会社はどんなねらいをもって上記に挙げたような施策を行っているのだろうか。電力会社が再生可能エネルギーを手がける背景を踏まえた上で、確認していこう。

関西電力

関西電力は、さまざまなソリューションを提供し法人顧客のエネルギー効率化に貢献する姿勢だ。特に、既存の設備を生かしながらエネルギーの効率化を図れるエネルギーマネジメントを提供している点は顧客にとって嬉しいのではないだろうか。

また、関西電力はスケールメリットを生かした再エネ発電施設の建設も行っており、実現したら供給量が高まることが期待できる。

東北電力

まず、「再生可能エネルギーアグリゲーションサービス」はFIT終了後に顧客が抱える課題を代行することで、再生可能エネルギーの活用を停滞させることなくスムーズに継続させるねらいがあると考えられる。

また、VPP事業は送電システムや送電線の建設・管理など既にあるノウハウとITを組み合わせる発想だ。再エネを効率よく供給することにより、カーボンニュートラルに貢献できるだろう。

まとめ

今回は脱炭素経営EXPO・スマートグリッドEXPOに出展していた電力会社の取り組みを紹介し、そこから見える背景や各電力会社のねらいなどを解説した。axetimes Bizは今後も、電力会社の再エネの施策に注目していきたい。

注:この記事は2022年12月16日に制作されました

記事制作 津島亜海

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