2022年の8月31日から9月2日にかけて行われた「第2回 脱炭素経営EXPO」。axetimes Bizがその会場を訪れて感じたことは、多くの企業が炭素会計ツールを出展していたことだ。
炭素会計は間違いなく、昨今のカーボンニュートラル領域の大きなトレンドの一つだ。しかし、それぞれのツールにどんな傾向があるのか、またこれほどまでに炭素会計の領域が盛り上がりを見せていることにはどんな背景があるのかを知る人は、それほど多くないだろう。
今回は axetimes Biz が「第2回 脱炭素経営EXPO」の会場で見た炭素会計ツールの特徴やトレンドと、その背景の分析をお届けする。
炭素会計ツールを比較
「第2回 脱炭素経営EXPO」に炭素会計ツールを出展した主な企業や製品の特徴を比較できる表を作成した。それぞれのツールの特徴を確認していただきたい。
名称 | 企業名 | 特徴 | 状態 |
c-turtle | NTTデータ | ・Scope3の算定を「総排出量配分方式」にて導入できる ・排出量を自動計算 | 2022年10月にローンチ |
Domo | DOMO Japan(SCSKは代理店) | ・あらゆるデータソースにアクセスし、データを一元化して分析するツール | 2015年4月にローンチ(日本版) |
e-dash | e-dash | ・請求書をスキャンしてアップロードするだけで電力やガスなどの使用量とコストを可視化し、それにもとづくCO2排出量を算出 ・CO2排出量削減の目標設定やロードマップを提案してくれる | 2022年10月にローンチ |
Percefoni | Percefoni Japan(SCSKは代理店) | ・CO2排出からレポートまでを一つのプラットフォームで管理できる ・Scope3カテゴリ15の算出が可能 ・投資家向けのポートフォリオ分析が可能 | 2020年にローンチ |
zeroboard | ゼロボード | ・サプライチェーン、製品別・サービス別のCO2排出量を可視化 ・国内外のグループ会社や製造拠点の排出量を一元管理 | 2021年9月にローンチ |
このように複数のツールが登場することで、ユーザーは料金の安さや操作性のよさなど、自社にとって優先したい項目を検討した上でツールを選ぶことができるメリットを得られる。
第2回 脱炭素経営EXPOにおける炭素会計ブースの盛り上がり
ここからは、EXPOに炭素会計ツールを出展していたブースの様子や雰囲気などをaxetimes Bizの視点でお届けする。
c-turtle
c-turtleのブースには多数の人員が配置され、立ち寄った来場者にさかんに声をかけていた。配置されていた社員も若手から中堅まで、幅広い年齢層だった。
また、やはりNTTデータのネームバリューは強いのか、多くの来場者がボードやポスターを見たり、社員に質問をしたりしていた。EXPO開催時点では c-turtleはローンチ前だったこともあり「あのNTTデータが炭素会計ツールをつくるのか」という驚きや発見の気持ちを持ってブースを見た来場者も多かったのではないだろうか。
e-dash
ブース周辺に若手社員を多数配置し、資料を配布しながら呼び込みを行っていたe-dash。
彼らの服装はオリジナルTシャツに黒いボトムス、黒いスニーカーとラフでありながら統一感があった。このラフな服装の若手社員を前面に押し出すことで、新興企業であることや勢いのある様子を押し出す戦略か。
若手社員だからといって質問に答えられないなどということはなく、過不足なく答えてくれ、来場者にも安心の体勢だった。
Percefoni ・Domo
これら2つのサービスに関しては、SCSKが代理店を務めている。そのため、同社はこの2つを同時出展し、2つのツールを導入することで相乗効果が得られることをアピールしていた。
ブースにいる社員は比較的若手社員が目立っていた。 SCSKは住友商事のシステムインテグレーターであり、堅実なイメージがあったことからこのブースの様子は新鮮に感じた。
zeroboard
今回のEXPOで、炭素会計ツールを出展した企業の中で一番大きなブースを出展していたのが zeroboard。1日の中で複数回セミナーやデモンストレーションを開催しており、その度に多くの人がブースに集まっていた。
セミナーの開催頻度、ブースの設営、社員やイベントコンパニオンの人数など何をとってもダントツで多く、株式会社ゼロボードがこのEXPOに並々ならぬ熱意を持って臨んでいることが感じ取れた。
なぜ今、炭素会計ツールがたくさん登場しているのか?
それでは、なぜ今炭素会計領域がこれほどまでに盛り上がっているのだろうか。ここからはこの点に関して、 axetimes Bizの分析をお送りする。
炭素会計は世界的な潮流から生まれた
まず押さえておくべき点は、炭素会計ツールとは利用企業・団体の炭素排出量を測定するためのツールであること。それではなぜ炭素排出量を測定すべきなのかというと、炭素排出量を削減しなけれならないからだ。
近年よく聞く「炭素排出量の削減」。これは決していち企業や特定の企業・団体が始めたものではなく、世界的な潮流の中で起こったものである。まずはどんな流れで炭素排出量の削減がさけばれるようになったのかを押さえておきたい。
炭素の排出が温暖化の原因ととらえられるようになったわけ
科学の進歩により地球の大気の仕組みが少しずつ解明されるようになった。その結果として1970年代に、地球温暖化が問題であるとの認識が生まれる。そして、1985年にオーストリアのフィラハで開催された国際会議(フィラハ会議)にて、二酸化炭素による地球温暖化の問題が取り上げられ、これに対する危機感が国際的に共有されるようになった。
COP21とパリ協定
地球温暖化対策は一国のみが対策を行っても効果は望めず、世界全体で取り組む必要がある。これについて話し合う場が「気候変動枠組条約締約国会議」である。この会議はConference of Parties、略してCOPと呼ばれている。
COPは毎年世界各国の都市で開催され、開催回の数字つきで呼ばれている。2015年に21回目の会議がパリで開催され、この会議はCOP21と呼ばれている。そして、COP21で決まった内容が「パリ協定」だ。
パリ協定の内容は主に以下の通りである。
- 世界共通の長期目標として平均気温の上昇を2℃に抑える(可能であれば1.5℃に抑える努力をする)
- 主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新する
- 全ての国が共通かつ柔軟な方法で実施状況を報告し、レビューを受ける
- 適応の長期目標の設定、各国の適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新
また、パリ協定は他の協定に比べて重要視されていると考えられる。その理由は主に以下の点にある。
- 歴史上初めて、開発途上国を含めた全ての国が参加している
- それまでに温暖化対策に対して消極的だったアメリカと中国が批准するように働きかけた(アメリカはその後2020年に脱退し、2021年に復帰)
- この協定が、批准国が2020年以降の温室効果ガス削減などの枠組みとなっている
菅首相の所信表明演説
そして、COP21やパリ協定に基づいて行われたのが、2020年10月26日に行われた菅義偉首相(当時)の所信表明演説の一部である。この演説で、菅首相はある宣言をした。「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と述べたのだ。
これだけでも十分画期的なものだといえるが、この演説はさらに踏み込んだ部分に言及している。
まず、「カーボンニュートラルへ対応することは経済成長の制約ではない」と断言した。さらに「積極的に温暖化対策は産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながる」という考えを紹介している。つまり、温暖化対策を経済成長の手段の一つとして位置付けているのだ。
このように、行政府がカーボンニュートラル対応について大胆な発想を発表したことはエポックメイキングなことだといえるだろう。
炭素排出量を削減することや、それに付随するサービスや商品が成長産業やイノベーションと認識されれば、それらを利用したり投資をしたりしたいと考える人や企業が現れるだろう。炭素会計ツールが登場したのには、このような背景があると考えられる。
また、実際に排出している二酸化炭素を削減する立場の事業者にとっては、炭素会計は炭素排出量削減の根幹を成すものといえる。なぜかというと、炭素会計を行うことでその企業が一定期間の活動で排出した炭素排出量が分かる。そこから削減案などを策定するからだ。
いまや炭素排出量削減は企業の戦略や経営企画にも関わるものであり、事業者も常にその動向を注目しているのだ。
炭素会計に関わる法整備
ここからは、炭素会計および二酸化炭素排出量の削減に関わる法律を見ておきたい。
改正温暖化対策推進法(2022年4月施行)
温暖化対策推進法は1998年のCOP3、いわゆる京都議定書が採択されたことを受け成立した法律である。
何度か改正を経ており、 直近では2022年4月に改正法が施行された。この改正では前述の所信表明演説で述べられた、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を反映したものとなっている。具体的には以下の内容が盛り込まれている。
- 地方公共団体が地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化に取り組むことを推進する
- 企業の排出量データをデジタル化・オープン化する
金融庁の取り組み
2022年7月に報道された内容によると、金融庁が上場企業など約4000社を対象に、気候変動に伴う業績などへの影響を開示するよう義務付ける方針だという。開示すべき内容は温暖化ガス排出量や気温上昇に伴う損失影響の試算などだそうだ。
この取り組みの目的は、2つあると考えられる。1つ目は、投資家向けに情報を開示すること。投資家が投資先がどれくらい脱炭素化に取り組んでいるのかを知らしめるねらいがあるのだろう。
2つ目は、情報を開示することにより、その企業の脱炭素化の取り組みを応援したいと考えた投資家から資金調達を得られる可能性があること。得られた資金をもとに、より強力な脱炭素化を行えると考えられる。
この取り組みは、まずは東証プライム市場に上場している企業が対象となり、2023年以降は有価証券報告書を提出する全ての企業が対象となると報道されている。
まとめ
今回は第2回 脱炭素経営EXPOの特徴であった炭素会計ツールの特徴と、なぜ今これほどまでに炭素会計ツールが登場しているのかを、COPや法整備などの側面から考察した。
これからも炭素会計ツール、および脱炭素にまつわるサービスはますます盛り上がりを見せることだろう。引き続き注目していきたい。
注:この記事は2022年12月3日に制作されました
記事制作 津島亜海
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