COP29:争点・決定事項などを解説 -気候変動資金について重要な決定と深まる対立-

2024年11月中旬から約2週間にわたり、COP29が開催された。COPは温室効果ガスの排出削減や気候変動に関する国際的な枠組みや取り決めなどを話し合うために、毎年開催されている国際会議である。 

今回のCOPでは何が争点となっていたのか、実際に何が話し合われたのか、どんなことが決定されたのか。また、今回のCOPはその歴史においてどんな位置づけであると考えられるのか。この記事ではこれらを解説する。

この記事の要約

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COP29の概要

期間:2024年11月11日〜24日(2日延長)
場所:バクー(アゼルバイジャン)

[日本からの出席者]
環境大臣 浅尾 慶一郎
外務省・環境省・経済産業省・財務省・金融庁・総務省・文部科学省・農林水産省・林野庁・国土交通省・気象庁の関係者
関係機関の関係者 

COP29の目的・位置付け

最大の焦点「気候変動資金」

今回のCOPで話し合われるべき最大の事項と考えられているのは、「気候変動資金」についてである。 

自明のことだが、気候変動目標のための取り組みを各国で行うためには、莫大な資金が必要となる。COPでは資金面に比較的余裕のある先進国だけでなく、新興国・開発途上国に対しても気候変動対策に関して目標を課している。それだけでなく、COP15にて先進国が新興国・開発途上国へ資金援助をすることが合意されている。これに基づき、2022年までに1000億ドル以上の資金が先進国から開発途上国へ援助された。 

しかし、事務局の報告によれば、発展途上国がそれぞれに課された目標を達成する実現するためには2030年までに6兆ドルの資金が必要とのことである。そのため、今回のCOP29では2025年以降の新しい資金支援の目標である「新規合同気候資金数値目標(NCQG:New Collective Quantified Goal)」が決定される予定である。 

以前より開発途上国は先進国に対して気候資金の拡大や無償の資金協力などを求めている。2024年6月にボン(ドイツ)で開催された気候変動会合でも、新興国・開発途上国はこの要請を行った。だが、先進国は気候資金の具体的な金額に触れず、特定の途上国を気候資金の拠出国に含めるよう提案した。結果として交渉は大幅な進展を見せることなく閉会となった。 

先進国と新興国・開発途上国の対立は解消されるのか?

上記以外の点においても、先進国と新興国・開発途上国との対立はこれまでに何度も見られている。それは、気候変動の大きな原因の一つと考えられている「化石燃料の使用(もしくは廃止)」に関する対立であり、以下の構図で表すことができる。 

先進国と新興国・開発途上国の対立

石油産出国であるドバイで開催されたCOP28では、これまでのCOPの成果文書で初めて化石燃料を「悪者」と表現し、「今後10年間で脱化石燃料を行う」と具体的な数字を盛り込むことに成功した。しかし、これにより先進国と新興国・開発途上国の間の溝が解消されたとは言いがたいのが現状である。 

今回のCOPでは、気候変動資金に関する議論をまとめることはもちろんのこと、この二項対立の構造から抜け出せるかも焦点となるのではないだろうか。

COP29で日本が果たした役割

浅尾環境大臣の参加

閣僚級ステートメント浅尾環境大臣は以下の会合に参加し、それぞれ発表・意見交換・アピールを行った。

閣僚級ステートメント 

11月20日に開催された閣僚級セッションにて、以下の内容を「ナショナルステートメント」として発表した。 

  • 「気候変動のための資金として、2020〜2025年の間に官民合わせて最大700億ドル規模を出資する」というコミットメントを着実に実施すること 
  • COP27にて決定された「「アジア太平洋地域における官民連携による早期警戒システム導入促進イニシアティブ」のもと、官民が連携しアジア太平洋地域における気候災害対策を実施すること 
  • 全ての締約国が、いわゆる「−1.5度目標」を達成するために整合的な全温室効果ガス・セクター・カテゴリーを対象とする経済全体の排出削減目標設定を求めること

これ以外にも、日本の取り組みとして以下の内容を発表した。 

  • NDC(国が決定する貢献)の項目において、日本がその内容を達成したこと
  • 「ネット・ゼロ目標」(2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること)に向けて、着実に取り組んでいること

二国間協議  

マレーシア、中国、バングラデシュ、イギリス、アゼルバイジャン、シンガポール、ウクライナ、EU、ニュージーランド、ドイツ、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル、アメリカなど約20カ国の閣僚級および代表と会談。また、グテーレス国連事務総長とも面会した。 

各会談では、交渉議題の採択に向けた議論やそれぞれの二国間の環境協力などについて意見を交換した。 

閣僚級コンサルテーション会合 

議長国主催の閣僚級協議「クルルタイ」をはじめとした、交渉グループや議長国との複数の閣僚級コンサルテーションに参加。気候資金、緩和、パリ協定第6条などに関する日本の考えを説明した。  

ジャパン・パビリオンの開催

今回も、環境省が主導し日本企業が気候変動に関する取り組みを紹介する「ジャパン・パビリオン」が開催された。参加企業の一覧および出展内容は以下の通り。

カテゴリー会社名・展示内容
エネルギー大成建設:ゼロカーボンビル「T-ZCB」の建設および脱炭素に資する新技術の開発と海外展開 
パナソニックホールディグス:3電池連携によるRE100ソリューション 
三菱重工業:グリーントランスフォーメーションに貢献する脱炭素技術 
炭素利用 日東電工:製造業で利用する貫流ボイラーからのCO2分離回収・変換・利用技術の実践 
日本CSS調査:ネット・ゼロへのCCSソリューション - CO2船舶輸送および地中貯留の技術開発・実証 
循環経済 AGC:太陽光パネルを含むガラスリサイクルと循環経済への取組 
カナデビア:革新的な廃棄物処理システムで実現する循環経済とGHG排出ネット・ゼロ
適応 アークエッジ・スペース:衛星を活用した自然環境改変やリスクの検出・分析可能な地理空間情報プラットフォーム 
地圏環境テクノロジー:統合型流域水循環シミュレーター「GETFLOWS」の物理的リスクへの適応技術 
適応ファイナンスコンソーシアム: 適応事業へ民間投資を促す適応価値の見える化・定量化DXおよびファイナンスモデル 
日立製作所:適応事業へ民間投資を促す適応価値の見える化・定量化DXおよびファイナンスモデル
その他 復興庁・公益財団法人福島県観光物産交流協会が主体となり、東日本大震災と福島第一原発の事故から福島が復興していること、汚染された土壌の除染、除染した土壌の減容のための技術などを紹介した

COP29で話し合われたこと・決まったこと

新規合同数値目標(NCQG) 

今回の最大の焦点である気候変動資金に関しては、「新規合同数値目標(NCQG=New Collective Quantified Goal)」としてまとめられた。 

今回のCOPでは、先進国が2035年までに官民合わせて少なくとも年3000億ドルを出資することが決定された。これには多国間開発銀行による支援、途上国による支援なども含まれる。 

また、この目標のために行動する全ての関係者に対して、この気候変動資金を2035年までに官民合わせて年間1.3兆ドル以上に拡大するために行動することが決定された。 

しかし、最終日にこの内容を含めた合意文書が採択された直後に、新興国・開発途上国から「目標額が低すぎる」「気候変動の重大さに応えられていない」など合意内容を批判する 発言が相次ぎ、中には途中退席する代表も。しかし、文書は採択され、COPは閉会された。 

採択文書だけを見れば、先進国から開発途上国に対して巨額の資金提供を行うことが決定されている。しかし、その背景には先進国と開発途上国・新興国間の深刻な対立が解決されることなく横たわる結果となった。 

緩和作業計画

「緩和作業計画」に基づき、2024年に「都市:建築と都市システム」をテーマに開催された、2回のグローバル対話の議論を踏まえた交渉が行われた。これらの対話の年次報告書において示された実施可能な解決策などに留意し、各国による自主的な取組の実施を促すとともに、次回以降対話を行うための手続きなどが決定された。  

適応・ロス&ダメージ

適応については、来年の COP30で作業が完了する予定となっている。今回は完了に向けた議論が行われ、本作業に関与する専門家に対する追加的な指針などが決定された。さらに、ハイレベル対話開催を含む「バクー適応ロードマップ」の立ち上げも決定した。 

ロス&ダメージについては、ロス&ダメージに対応するためのワルシャワ国際メカニズムの年次報告書並びにレビューの議論が行われたが、コンセンサスに至らず引き続き議論を行うことになった。  

パリ協定第6条に関する決定

パリ協定第6条は、温室効果ガスの排出削減や適応について、国際的な協力を行うことを取り決めたものである。これに基づき、COPでは各国でさまざまな施策を行うための枠組みが検討されている。今回は以下の内容が検討され、合意された。

  • 削減・除去の量をクレジット化して分配する際に必要な締約国政府による承認や報告の項目や様式 
  • クレジットの記録や報告に用いる登録簿間の接続性などについて

グローバル・ストックテイク 

グローバル・ストックテイク(GST)とは、パリ協定によって定められたいわゆる「-1,5度目標」を世界全体で達成するために実施状況をレビューし、目標達成に向けた進捗を評価する仕組みであり、前回のCOPで初めて実施されたものである。 

今回の議論では、GSTを実施する対象範囲などについて締約国間で見解の一致を図れず、来年以降引き続き議論が継続されることになった。 

プロセス改善に関する議論・次期NDC(国が決定する貢献)の検討への情報提供に関する知見・優良事例を共有する年次GST対話などについては、報告書を採択すべく引き続き議論を継続することとなった。 

ジェンダーと気候変動 

実は、ジェンダー(男女の社会的役割)と気候変動は密接な関係があるとされている。 

例えば自然災害が発生した場合、体力差や水泳を習う機会の有無などの理由から、女性の方が男性より14倍死亡する可能性が高いといわれている。また、干ばつが発生し水を手に入れにくくなった場合、家事を担うことの多い女性が遠くまで水をくみにいかなければならず、学業や就労の機会を奪われる光景は開発途上国でよく見られるものである。 

これらのようなジェンダー不平等を解消すべく、近年では気候変動対策にジェンダーの視点を盛り込む必要性が訴えられるようになった。 

2014年のCOP14で採択された「ジェンダーに関するリマ作業計画」について、これを10年間延長することが今回決定された。ジェンダーと気候変動に関する取り組みについて、一定の進捗があったことが認められたが、その一方でさらに実施を強化することの必要性が認識された。 

その他

農業・研究と組織的観測・透明性枠組みの報告ツール・公正な移行作業計画・対応措置・キャパシティ・ビルディング・技術移転・気候エンパワーメントのための行動などについて議論が行われた。  

COP29の結果を日本はどう受け止めるべきか

今回の最大の議題・気候変動資金に関して、先進国は2035年までに官民合わせて少なくとも年3000億ドルを出資することが決定された。これを実施するための法律や条例・省庁からの要請などはこれから行われるが、日本は先進国の一員としてこの決定に応えていかなければならない。 

また、COPの開催に合わせて複数の国のNGOが毎年表彰している「化石賞」がある。これは、これらのNGOが気候変動対策に消極的だと判断した国に対して贈っているもので、日本はここ数年毎年受賞している。 

今年化石賞を受賞したのは、「G7(主要7カ国)」。これには日本も含まれている。日本が選ばれた理由は、「パリ協定で定めた世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑える努力をするという目標に沿うため、温室効果ガスの排出量を2035年までに2013年と比べて81%削減する必要がある」というものだそうだ。 

化石賞の受賞に対し、日本政府は毎年ノーコメントとしている。しかしここ数年毎年受賞しているからには、気候変動対策について、根本的により野心的な取り組みを行う、あるいは日本と日本企業が気候変動に対して行っている取り組みをより強くアピールする必要があるのではないだろうか。 

COP29のまとめ

今回のCOPをまとめると、以下の内容となる。

  • 気候変動資金について、先進国が2035年までに官民合わせて少なくとも年3000億ドルを出資することが決定された
  • しかし、先進国と開発途上国・新興国との対立は解消されず、より深まった印象がある

axetimes Bizは今後もより一層、COPおよび日本の行政府の動きにも注目していく。

記事制作 津島亜海