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実態を伴わない環境価値の訴求や消費者に誤解を与える可能性のある広告・表示を行うグリーンウォッシュ(greenwashing)は、持続可能な脱炭素化の推進にとって障害であるとして、国連などの国際機関による対策・議論が行われており、脱炭素関連市場の新たな課題として注目が集まっています。
アックスタイムズでは、グリーンウォッシュが今後さまざまな地域・業界・企業に影響を与える重要なトピックスであると捉え、グリーンウォッシュ規制に関する調査を実施しました。本調査では、最新の規制の動向(2024年7月時点)に加え、エネルギー業界(電力・再エネ関連、新燃料・水素関連)、化学業界(工業化学関連)、製鉄業界、自動車業界(EV・バッテリー関連)の事例やカーボンクレジット・カーボンオフセットなどの脱炭素施策との関連性などを分析することで、グリーンウォッシュ規制による企業・業界・市場への影響を体系的に把握できます。

グリーンウォッシュ禁止指令 地域規制・業界事例・市場動向に関する調査 2024年版(発行日:2024年7月11日)

グリーンウォッシュ禁止指令 地域規制・業界事例・市場動向に関する調査 2024年版

本記事は、上記調査報告書の調査結果(調査期間:2024年6月~2024年7月)を踏まえた最新動向として作成しています。グリーンウォッシュ規制への対応が全ての業界・企業にとって避けては通れない課題となっている中で、自社事業への影響を把握し、最適な対処を講じるための第一歩としてご活用ください。

グリーンウォッシュ規制関連の動向を解説する「この記事のポイント」

(1)注目が集まる背景・要因(2)国際機関の動向(3)欧州・米国・日本の施策
なぜいまグリーンウォッシュ規制について
注目が集まっているのか
グローバルかつ公的な立場から脱炭素化を推進する
国連やIEA等がどういった役割を担うのか
2050年のカーボンニュートラル実現を目指すなかで、
グリーンウォッシュ規制に着手しているか
(4)業界・企業の動向・事例(5)関連機関・規格等の整理(6)脱炭素推進施策との関連性の把握
脱炭素化に取り組む業界や企業にとって
グリーンウォッシュ規制の影響はどういうものか
グリーンウォッシュ規制対策として関連性の高い
第三者認証・規格・イニシアチブは何か
カーボンクレジット・カーボンオフセットなど、
脱炭素化推進施策に影響を及ぼすか

この記事では、これら6つの観点から解説しています。

グリーンウォッシュ規制に注目が集まる背景・要因

COPや国連によるグリーンウォッシュ規制の指針提示

国連ではグリーンウォッシュの方法論を例示することでグリーンウォッシュへの注意喚起を促している。さらに、あらゆるグリーンウォッシュを許容しない姿勢を表明した報告書がCOP27において公開(詳細は下記「国連が表明するグリーンウォッシュ規制への姿勢」に記載)されたため、グリーンウォッシュ規制を強化する必要性の認識を共有し、国際協調を図る姿勢が際立ちました。

業界・企業のリスクが顕在化

2024年2月に欧州で「グリーンウォッシュ禁止指令(グリーン・クレーム指令、GCD)」が採択されたことによって、欧州では今後、従来通りの環境主張が認められないリスクが生まれています。関連施策である「グリーン移行のために消費者に権限を与える指令(ECD)」は先行して発効しており、数年内にEU加盟国の国内法へと落とし込まれる予定(指令発効後、2年以内に規則等を制定・公布し、段階的な導入を推進することが通常)であるため、欧州域外の企業を含め、最新の動向把握と規制対応が急務となったことも、注目を集める要因となっています。

国際機関とグリーンウォッシュ規制との関わり

国連が表明するグリーンウォッシュ規制への姿勢

国連では、グリーンウォッシュがネットゼロ実現における課題であると捉え、多国籍なチームメンバーで構成されるハイレベル専門家グループを発足させています。本チームは、すべての企業、投資家、都市などが、ネットゼロへの取り組みを公約通りに実行することが急務であり、なおかつ、いかなる形のグリーンウォッシュも許容できないという姿勢を示しています。さらに、ネットゼロに誠実さ、透明性、説明責任をもたらすための10の実践的な推奨事項を提示した報告書を作成し、COP27(国連気候変動枠組条約締約国会議)において発表しています。この報告書を含め、国連がグリーンウォッシュを許容しない姿勢を明確にしたことから、グローバル市場においてグリーンウォッシュ規制の強化が後押しされている形となっています。

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IEAのロードマップ準拠の重要性

IEAは、パリ協定における目標を達成するための道筋を示すために、2050年までのネットゼロ達成に関する報告書「Net Zero by 2050」を2021年に作成したのち、2023年には最新の進捗状況を踏まえた「Net Zero Roadmap(A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach)」を公表しています。これらのIEAが示す報告書は、国・業界・企業などが脱炭素化の目標を設定する際に国際協調を図るための重要な役割を担っています。脱炭素化は世界共通の課題であることから、単独の組織が独自の指標によって脱炭素化の目標を設定・達成したとしても、その詳細を示さずにネットゼロへの貢献や目標達成を一方的に示すことは、広義の意味でグリーンウォッシュに該当する可能性があります。IEAが示す国際的なロードマップ・指標を踏まえた目標設定と、その目標達成への貢献を示すことがグリーンウォッシュ規制への対策の一つとなっています。

欧州・米国・日本のグリーンウォッシュ規制の概況

欧州米国日本
グリーンウォッシュ規制に関する
EU加盟国の国内法が策定予定
「Green Guides」の改定や
連邦取引委員会による規制対応強化
措置命令等の強化を図る改正景品表示法が
2024年10月より施行予定

欧州の概況

2024年に採択された「グリーンウォッシュ禁止指令(グリーン・クレーム指令、GCD」が最新かつグリーンウォッシュを焦点とした施策となっています。本指令は、既に発効している「グリーン移行のために消費者に権限を与える指令(ECD)」を補完する位置付けでもあり、この二つの指令によって、欧州はグリーンウォッシュ規制を具体化していく方針となります。

米国の概況

米国ではバイデン政権において気候変動対策が強化されており、連邦取引委員会が示す「Green Guides」に沿った対応を促すとともに、既存の法規制や各州の個別の規制に準拠する対応が求められます。

日本の概況

日本では、グリーンウォッシュに特化した法規制はみられないものの、景品表示法や環境表示ガイドラインが関連する施策・法規制の位置付けとなっています。特に景品表示法では、優良誤認に関する条項に抵触する点から、生分解性に関する表記に関する措置命令など実施された事例が発生しています。

業界別動向

エネルギー業界や化学業界では、グリーンウォッシュ規制への対策として、「グリーン」などの抽象的な表記ではなく、具体的な定義・規格化に着手しています。この動きは、現在進行形で推進されている動きであり、今後も更なる具体化や第三者認証の導入などが進むことが予測されます。

業界グリーンウォッシュ規制動向
エネルギー業界(電力・再エネ関連)既存のグリーン電力証書などに加えて、24/7カーボンフリー電力の規格化が進展
エネルギー業界(新燃料・水素関連)GHG排出量ベース(炭素集約度)での低炭素水素の定義確立
化学業界(工業化学関連)現状の規格の方式に留意しながら、実配合率への優先度を強化
製鉄業界IEAがニア・ゼロエミッションスチール(NZE)の定義について提案を発信
自動車業界(EV・バッテリー関連)DPP・バッテリーパスポートとして製品情報を記録する仕組みを導入予定(欧州)

関連性のある規格・イニシアチブ

規格・イニシアチブの役割

透明性・客観性・比較可能性のある情報公開基準として機能することによって、サービス・製品を受け取る顧客・消費者だけでなく、社会全体として協調したカーボンニュートラルへの取り組みを推進することができるようになります。一方で、非常に重要な役割を担うことから、規格・イニシアチブが乱立することは環境主張を行う企業側を含めて社会全体の混乱を生むことにも繋がります。事前に取り決められた規格・イニシアチブへの準拠を図ることに加え、新たに発足する規格・イニシアチブでは、既存の規格・イニシアチブに対して付加価値があることが求められます。

規格(認証・評価基準)

ISO規格/ISO14068-1
ISAE3410(GHG報告に対する保証業務)
ISSA5000(国際サステナビリティ保証基準)
NGFS(金融システムのグリーン化ネットワーク)

TCFD提言(気候関連財務情報開示タスクフォース)
PACTA(パリ協定資本移行評価)
PCAF(金融向け炭素会計パートナーシップ)

GHG排出削減に向けたイニシアチブ

Climate Bonds Initiative
GHGプロトコル
PRI(国連責任投資原則)

SBTi(科学に基づく目標設定イニシアティブ)
TPI(移行経路イニシアティブ)

脱炭素推進施策との関連性

脱炭素化を推進する業界や企業にとっては、カーボンクレジットやカーボンオフセットなどの脱炭素推進施策を有効活用することが重要であるものの、グリーンウォッシュ対策の観点では、活用する際に留意が必要な状況にもなっています。

脱炭素推進施策グリーンウォッシュ規制との関連性(留意点)
カーボンクレジット・カーボンオフセットGHG排出量の削減に関して、実態を伴う内容となっていない場合にはグリーンウォッシュとみなされる可能性が高まっている。
ESG債・グリーンボンド資金調達の使途や活用実態が脱炭素化に繋がっている実態を示す必要性が高まっている。
マスバランス方式(ISCC認証)脱炭素化の推進フェーズに応じて、適切な方式の採用が必要となる(実配合率対応など)。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)カーボンフットプリント等の環境面を含む情報開示(透明化)への対応として導入が求められる(欧州で開始予定)。

まとめ

2016年に発効したパリ協定以降、グローバル市場では急速に脱炭素化の動きが活発化した結果としてグリーンウォッシュが生まれていることから、脱炭素化を積極的に推進している企業ほど、グリーンウォッシュ規制の影響を大きく受ける可能性があります。また、欧州で発効した指令(ECD)では消費者向けの規制として対策が進んでいるものの、消費者向けに限らず、水素や製鉄などBtoB関連の領域でも、既に定義の再策定や規格化などの動きが始まっており、業界を問わず、グリーンウォッシュ規制への対応が求められています。

グリーンウォッシュ規制による自社事業への影響を想定し、事前に対策を取ることは一朝一夕では難しいものの、早期にグリーンウォッシュ規制への対応を進め、業界や国・地域のルールメイキングにスムーズに対応することができれば、自社の製品・事業の訴求力をいっそう高め、新たな強みを発揮することにも繋がります。アックスタイムズでは、脱炭素化に取り組む企業・団体を情報面から支援するために、今後もグリーンウォッシュ規制関連の動向を継続的に調査します。

記事制作 アックスタイムズ

この記事の元となる「体系的に整理された調査報告書」について

調査報告書名:グリーンウォッシュ禁止指令 地域規制・業界事例・市場動向に関する調査 2024年版
発行日   :2024年7月11日
体裁    :PDF_Slide16:9_40pages
調査・制作 :アックスタイムズ株式会社
[目次・調査概要]
https://axetimes.com/report/research-about_anti-greenwashing_regional-policy-and-market-impact_global_2024/
[税込価格]
事業所ライセンス版PDF  33,000円(税抜30,000円)
企業ライセンス版PDF   49,500円(税抜45,000円)
グループライセンス版PDF 82,500円(税抜75,000円)

グリーンウォッシュ禁止指令 地域規制・業界事例・市場動向に関する調査 2024年版
グリーンウォッシュ禁止指令 地域規制・業界事例・市場動向に関する調査 2024年版

グリーンウォッシュ規制が各国で強化されています。本調査では、日本・米国・欧州の規制動向や業界・企業の事例などから、グリーンウォッシュ規制による企業・業界・市場への影響について分析しました。